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2024年11月19日公開

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プログラミング

イムス富士見総合病院 院長 鈴木 義隆 先生

第1回目の今回は、プログラミングのリスキリングを通じ、病院のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進や意識改革に取り組まれている埼玉県富士見市のイムス富士見総合病院院長の鈴木義隆先生にお話しを伺いました。

鈴木 義隆 先生 ご略歴

1990年旭川医科大学卒業。埼玉医科大学付属病院、帝京大学医学部附属病院などを経て、

2005年IMSグループ板橋中央総合病院

2013年イムス富士見総合病院院長

専門は血管外科。
日本外科学会認定外科専門医、日本脈管学会認定脈管専門医・指導医

リスキリングのきっかけ

 私が2013年から院長を務めているイムス富士見総合病院は、1都6県1道に総ベッド数1万2千床、総職員数約2万人を擁するIMSグループに所属している病院で地域に根ざした急性期総合病院として、専門的で質の高い医療を提供しており、小児医療、周産期医療、24時間体制の救急・小児救急医療、さらに医療と介護の連携に基づいた在宅支援にも力を入れています。
 私がプログラミングを学ぼうと考えた最初のきっかけは、日報を作成する際に必要な情報を電子カルテから抽出して集計するのに非常に時間がかかり、また、そもそも完成したものが正しいのかも疑わしいため、何とかできないかと考えたことです。そこでエクセルの入門書を購入し見様見真似でやってみたところ、効率よく日報を作る仕組みを作成できたのですが、他のスタッフには活用してもらえませんでした。他のスタッフからすると、これまでの業務のやり方があり、専門家でもない私が考案したやり方で本当に問題がないのか怪しいでしょうから当然だと思います。そのまま病院全体での業務改善が進まないまま7、8年が経ってしまったのですが、2019年頃にCOVID-19の蔓延などにより、職員の感染状況を含む効率的なデータ管理は喫緊の課題となったため、きちんとした知識を外で学び、業務改善に取り組もうと考えました。
 そこで、Google Workspace※1をシンプルなコードで自動化、拡張可能な、JavaScriptをベースとしたプログラミング言語(Google Apps Script)を学習できる書籍※2を出していた方が主催している、「ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会」(ノンプロ研)という学習コミュニティに参加することにしました。

※1Gmail、Googleドライブ、カレンダー、ドキュメント、スプレッドシート、翻訳など、Google社が提供するサービスの総称

※2高橋宣成著「詳解!Google Apps Script完全入門[第3版]」(株式会社秀和システム) 2021

リスキリングでの体験

 ノンプロ研とは、プログラムの学習が難しい環境にあるノンプログラマー(ITを専門としない人)が、集まって相互学習する場を提供するコミュニティです。
 参加してみると、周囲は若い人ばかりでした。私が年齢もかなり上の病院長ということで、皆さんに興味を持っていただきましたが、率直に交流できました。その人たちをみていると、皆が問題意識を持っていて、それをまずコミュニティ内で共有し、皆で解決しようとするパワーがすごいなと思いました。中には、あっという間に自分の事業にその成果を組み込んでしまう人もいましたね。そのあたりの感覚が、われわれ医療職とはかなり違うと感じました。

リスキリングの医療現場での活用

 2020年に、ノンプロ研に一緒に入っていたメンバーと、Google Workspaceを利用したコロナの災害対策本部用共有スペースを開設しました。それまでは毎朝コロナの対策会議を開き、紙の感染台帳を各部署から集めていたのですが、すごい枚数になったためこれではいけないとなり、所属長が共通のシートに入力し共有する仕組みにしました。現在は救急外来の救急台帳も同様に運用しており、日報や手術などについても徐々に共有されるようになってきています。また、コロナ禍ではワクチン接種の予約システムは手作りしたものを運用していました。

 また、現在国を挙げて医療DXを進めていますが、今後病院が病院DXを推進する際、ベンダーに丸投げでは個々の施設に最適化されたシステムの構築はできません。そのため、組織内のシステム導入の意思決定を行う人間はきちんとした知識を持つ必要があります。
 ただ、まだ当院でも病院DXが十分進んでいるとはいえない段階で、今後は私が学んだ経験を当院にどのように移植するかが課題と考えています。私一人だけでは限界があるため、各部署の有志の職員にもノンプロ研で学んでもらっていますが、得た知識を現場で活用するまでには至っていないのが現状です。
 これはプログラミングに限った話ではなく、看護師の特定行為の研修などでも本人のスキルアップに留まり現場で展開されないことは課題となっています。プログラミングでもなんでも、これから越境学習※3に行く方を院内で大々的に宣伝し、こういう分野を勉強してくるので応援しましょう、帰って来たときにはこういう試みを始めるので関心を持ってくださいなどと、学んだことを現場で展開することを病院全体で後押しする仕組みが必要なのではないかと考えています。

※3普段慣れ親しむ環境(ホーム)と、それとは異なる環境(アウェイ)を行き来しながら学習すること。異なる環境では、自身がリセットされ新たな学びが促される。新しい環境で活動するためには、今までの自分の枠組みでは通用しないことがわかる。頼る力、巻き込む力が必要とされ、その力が養われる。そこで得た体験・知識を持ち帰り、新しい視点で業務改善することが期待される。

参考:石山恒貴・伊達洋駆著 「越境学習入門」(日本能率協会マネジメントセンター)2022

リスキリングを検討している方へ

 医療職の方々は、学校で身に着けた専門知識を入職後にOJTでさらに掘り下げて行くのは得意な傾向にありますが、外から全く新しい知識を探索して得ることができる、横に広がっていける人材はあまりいないように感じています。
 何かを頼まれて新しいことを学ぶと仕事が増えると考えがちですが、学びを活かすことで仕事を効率化できるかもしれないということに目を向けてほしいと思います。自分たちのやり方で課題が出たとき、同じ枠組みで何とかしようというのは根性論になりがちで、また同じ課題が出てきます。深堀りするだけではなく、リスキリングすることで自分たちがやっていることが本当に正しいのか、もっといいやり方があるんじゃないかと課題を枠組みの外から俯瞰して見ることが解決の糸口になると思います。

 また、人生100年時代といわれていますが、医療者の多くは60歳でいったんキャリアの区切りを迎えることが少なくないのが現状です。現在の医学部の教育体系は数十年前とは相当変わってきており、若い医師の基本的な診療技術はかなり高いレベルにあります。そのような環境下で、60歳に達した医師が引き続き活躍するには、リスキリングにより自分の知識の幅を広げ、医療技術を更新・再起動することが必要ではないでしょうか。

2024年11月作成

17778-1 B3 GT