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医療DXの現在と未来~全体像と精神科での姿~

木下翔太郎先生の肖像写真

木下 翔太郎 先生

慶應義塾大学医学部ヒルズ未来予防医療・ウェルネス共同研究講座 特任助教

千葉大学医学部卒。内閣府事務官、東京女子医科大学東医療センター初期臨床研修医、慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室特任助教などを経て現職。日本女性心身医学会認定医師、労働衛生コンサルタント、医学博士。

現在、日本ではあらゆる分野で既存システムの非効率性や深刻な人材不足が問題視されており、DX(Digital Transformation)の推進に拍車がかかっています。医療分野でもコロナ禍を契機として、政府が医療DXの普及・促進に向けて舵を切りました。医療DXが普及すると、医療現場はどのような変化を遂げるのでしょうか。今回、慶應義塾大学医学部ヒルズ未来予防医療・ウェルネス共同研究講座の特任助教である木下翔太郎先生に、医療DXの定義やその現状、開業医が医療DXを導入する際のポイント、医療DXの未来についてお話を伺いました。

医療DXの定義と
日本政府の取り組み

DXは2004年にスウェーデンの研究者であるエリック・ストルターマンが提唱した概念で、「デジタル技術が人々の生活のあらゆる面に与える変化や影響」と定義されています1)医療分野におけるDXすなわち「医療DX」とは、患者さんの医療情報や病院内の情報・プロセスをデータ化し、クラウドなどの基盤を通じて共有・解析することで医療をより良い方向に変えていくことを指します。医療DXに関する研究は以前より進められていましたが、日本ではコロナ禍を契機に医療DXを推進する取り組みが活発になり、2022年5月に自由民主党政務調査会より「医療DX令和ビジョン2030」が提言され、同年10月には政府に医療DX推進本部が設置されました。

木下翔太郎先生の肖像写真

医療DXの導入に向けた日本政府の取り組みは、「全国医療情報プラットフォームの創設」、「電子カルテ情報の標準化等」、「診療報酬改定DX」の3本柱になっています。
「全国医療情報プラットフォーム」とは、全国の医療機関や自治体、介護事業者などで管理している医療情報を集約するシステムで、必要な時に必要な情報を共有・交換することができます。たとえば患者さんに服用中の薬や他院で処方された薬について質問しても正確な回答が得られないことがしばしばあり、ポリファーマシーに至るリスクがあります。特に精神科では、複数の医療機関を受診して睡眠薬や抗不安薬を必要以上に集める患者さんが問題視されています。全国医療情報プラットフォームが創設されると、患者さんの服薬歴を把握することができるようになるので、こうした問題が解消されることが期待されています。

「電子カルテ情報の標準化等」については、米国・スウェーデン・英国・シンガポールにおける電子カルテ普及率は2018年時点で80%以上でした2)それに対して日本国内の電子カルテ普及率は一般病院で57.2%、一般診療所で49.9%に留まると報告されています(2020年時点)3)また、現在一般的に使われている電子カルテは医療機関同士の共有を前提としていないものがあり、共有するのに手間と時間がかかるといった問題もあります。こうした背景から、現在政府は医療機関同士で情報共有しやすい標準型電子カルテの開発・検討を進めています。

医師にとって身近な医療DX:
治療用アプリとオンライン診療

医師にとって身近な医療DXは、治療用アプリやオンライン診療ではないでしょうか。
治療用アプリは様々な疾病で開発が進められており、睡眠や高血圧などいくつかの領域では、既に薬事承認を取得して保険適用されたものもあります。従来の口頭での指導や薬物療法とは異なるアプローチとして、治療効果だけでなく患者さんの治療継続や行動変容などにも貢献する可能性が期待されます。しかし、スマートフォンの操作に慣れていない、またはスマートフォンを持っていない患者さんもいるため、患者さんに応じてアプローチを変える必要はあります。

オンライン診療については、日本ではコロナ禍を通じて利用は増加したものの、その普及率は令和5年(2023年)時点で医療機関全体のうち16.0%に留まっています4)仕事などでなかなか受診できない、何らかの理由で外出が難しい、あるいは精神科の場合は外出するのがつらいといった患者さんに対して、オンライン診療を提供できるようにするのは非常に大切です。また、へき地医療においては、患者さんが看護師などといる場合のオンライン診療を指すD to P with N(Doctor to Patient with Nurse)が患者さんやご家族の負担軽減につながると期待されることから、令和6年度(2024年)の診療報酬改定において「看護師等遠隔診療補助加算」が新設されました。これにより、患者さん自身がパソコンやスマートフォンを持たなくても、現場の看護師などのコメディカルがサポートすることでオンライン診療を受けられるようになりました。

精神科における医療DXの
普及・促進に向けた研究

精神科領域では、オンライン診療と対面診療の治療効果や治療継続率、治療満足度などを比較した研究が世界中で実施されています。我々のグループも「対面診療に比したオンライン診療の非劣性試験:COVID-19によって最も影響を受け得る精神疾患に対するマスタープロトコル試験による検証」(Japanese Project for Telepsychiatry Evaluation during COVID-19 Treatment Comparison Trial:J-PROTECT)研究を行い、対面診療群に対するオンライン診療併用群の非劣性が示されました図15)この研究はオンライン診療と対面診療を比較した国内初の大規模試験であり、オンライン診療の普及に向けた政策的議論の活性化につながりました。

図1対面診療に比したオンライン診療の非劣性試験(J-PROTECT)

主要評価項目24週時のSF-36 MCS

オンライン診療と対面診療の非劣性検証試験の結果を示すグラフ
  • Kishimoto T, et al. Psychiatry Clin Neurosci 2024 ; 78(4) : 220-8 本文より作図

安全性(有害事象)

有害事象はオンライン診療併用群で4例、対面診療群で5例に認められた。有害事象は、胆嚢炎、後縦靭帯骨化症、腹痛などの身体症状がほとんどで、治療とは無関係であった。

【 目  的 】 うつ病、不安症、強迫症に対するオンライン診療の有効性を検討すること。
【 対  象 】 国内のうつ病、不安症、強迫症の18歳以上の外来患者199例
【 方  法 】 対象をオンライン診療併用群と対面診療群に1:1の比で無作為に割り付け、外来治療を24週間行った。診療間隔は医師の裁量により決定された。なお、オンライン診療併用群の患者は全診療の50%以上をオンライン診療とし、少なくとも6ヵ月に一度は対面診療を受けた。
【 評 価 項 目 】 主要評価項目:24週時のSF-36 MCS(MOS 36-Item Short-Form Health Survey Mental Component Summary)
副次評価項目:SF-36 PCS(Physical Component Summary)、有害事象 など
【 解 析 計 画 】 カテゴリ変数の解析にはカイ二乗検定およびFisherの正確確率検定、連続変数の解析にはWilcoxonの順位和検定およびt検定を用いた。主要評価項目は反復測定混合効果モデルを用いた解析(MMRM解析)により、各時点の点推定値(最小二乗平均)と95%信頼区間を算出した。相関構造は構造化されていないものと仮定した。割り付け調整因子により調整を行った後に各変数の推定値として制限付き最尤推定値を用い、Kenward-Roger法により変数推定値の分散と自由度を解析した。非劣性マージンは-5とした。有意水準は片側p<0.025および両側p<0.05とした。
【Limitations】 本試験の対象疾患はうつ病、不安症、強迫症のみであり、全ての精神疾患を網羅していなかった。また医師、患者ともに盲検化できなかったこと、追跡期間が短かったことが挙げられる。
  • Kishimoto T, et al. Psychiatry Clin Neurosci 2024 ; 78(4) : 220-8

オンライン診療の他に研究が盛んに進められているのは、人工知能(Artificial Intelligence:AI)です。近年AIは目覚ましい進歩を遂げており、医療分野でも疾病の診断や治療におけるAIの活用が世界的に注目されています。日本でも、AI画像診断支援システムなどで薬事承認を取得しているものがあります。精神科の分野では、AIを用いた症状評価に関する研究が進められており、我々のグループも、デバイスを通じて収集した患者さんの表情や体動、患者さんの声の音響学的な特徴などのデータを定量化し、うつ病や認知症の重症度を予測するようなアルゴリズムとデバイスの開発に取り組んでいます図26)このアルゴリズムが実用化されれば、たとえば非専門医が精神疾患の可能性がある患者さんに遭遇した際に、的確に状態を判断して速やかに専門医に紹介できるようになることが期待できます。

図2表情・音声・日常生活活動の定量化から精神症状の客観的評価をリアルタイムで届けるデバイスの開発

AIを活用したデバイス開発の展望を示した図
  • 木下翔太郎ほか 医学のあゆみ 2023 ; 287(2) : 130-4

開業医が医療DXを始めるなら、
電子カルテとオンライン診療

開業されている先生が医療DXを活用するならば、まず行うべきは電子カルテの導入だと考えています。その理由は、カルテが電子化されていないと医療DXの根幹である医療情報の共有・交換が難しいためです。現在多数の電子カルテシステムが利用可能ですが、今後の医療DXの流れに沿った電子カルテシステムを選ぶポイントは、院内外で参照可能で、他院と共有しやすいものだと思います。

電子カルテの他にも、オンライン診療は導入を検討すべき医療DXだと思います。近年の世界的なオンライン診療の動向、日本の高齢化や人口減少と医療従事者不足、患者さんのニーズを踏まえると、オンライン診療に対応できる状態にしておくことは、診療所の経営の観点からも望ましいといえます。

オンライン診療を始めるにあたって用意すべきは、まずはオンライン診療用のデバイスです。これは、電子カルテ管理用のパソコンにはウェブ会議ツール(TeamsやZoomなど)をインストールできないことが多いためです。したがって一般的には、電子カルテ管理用のパソコンとオンライン診療用のデバイスの2台で診療を行います。この他にも、診察時間の管理や会計の際の混乱を防ぐために、医師、看護師、受付・事務の間で体制やフローを整理しておくことも大切です。混乱が最も生じやすいのは会計です。オンライン診療専門のシステムを活用すれば、患者さんがシステム上にクレジットカード情報を登録しておくことで会計が成立することが多いのですが、オンライン診療専門ではない一般的なウェブ会議ツールなどを活用すると会計システムが存在しないので、患者さんが来院した際に対面診療分とオンライン診療分をまとめて支払うような複雑な流れになってしまいます。このような場合は誤請求が発生しやすいので、十分注意する必要があります。

オンライン診療のハードルと
克服のためのノウハウ

オンライン診療にかかる診療報酬の算定は、やや複雑かもしれません。日本では2018年(平成30年)にオンライン診療料が新設されました。この時は再診のみが対象で、対象疾病も限定的であっただけでなく、緊急時対応の要件などの厳しい条件がありました。2020年(令和2年)には新型コロナによる時限的措置として初診からオンライン診療が可能となり、再診についても要件が緩和されました。その後、2022年(令和4年)の診療報酬改定において、オンラインによる診療と再診料が恒久的に認められ、医学管理料や指導料も算定できるようになりました。そして2024年(令和6年)には医療情報取得加算、医療DX推進体制整備加算、在宅医療DX情報活用加算などが新設されました。この時、精神科領域では通院・在宅精神療法の見直しが行われ、早期診療体制充実加算が新設されました。2024年(令和6年)時点における、精神科領域での対面診療とオンライン診療の診療報酬を比較したのがです。今後もオンライン診療に関する診療報酬は改定されることが予想されるので、定期的に確認することが大切です。

精神科における診療報酬の算定イメージ(2024年時点)

精神科における診療報酬の算定イメージを示した表
  • 精神保険指定医のみ、再診のみ。1回の処方において3種類以上の抗うつ薬または3種類以上の抗精神病薬を投与した場合には算定できない。通院・在宅精神療法に規定する施設基準は「早期診療体制充実加算」と同等。
  • ※※オンライン診療料算定時に社会通念上適当な額として医療機関が設定した額を徴収可能。
  • 資料作成提供 木下 翔太郎 氏

オンライン診療を行うためのハードルを乗り越えるために、日本精神神経学会では「医療DXに関する委員会」が中心となって、これからオンライン診療を始める医師を対象としたワークショップを企画しています。医療DXの導入を学会がサポートするという取り組みなので、ご興味のある方はぜひ参加いただきたいと思います。この他にも我々のグループでは、精神科医向けのオンライン診療に関するマニュアルを作成したり、オンライン診療の活用事例を収集したりといった、オンライン診療のノウハウを広めていくための取り組みも行っています。

医療DXが今後どのように
変わっていくのか

昨今の科学技術の急速な発展から、患者さんが自宅で診療を受けて薬をドローンなどで受け取ることができるようになる日はそう遠くないでしょう。「医療機関に行くことも待つこともなく、診療を受けたい」という患者さんのニーズが少なからずあると思われるので、そのニーズに合わせて今後も様々なシステムやツールが開発されると思います。この未来図の大前提として、オンライン診療があります。現時点においては、オンライン診療では検査ができないというデメリットはありますが、AIを搭載したウェアラブルデバイスやスマホアプリといった疾病の診断・検査ツールの開発が多数進められていますので、今後は自宅でも検査を受けられるようになり、オンライン診療と対面診療の差がますます縮まっていくでしょう。

日本の人口は減少の一途をたどっており、コンパクトシティのように医療機関も集約していかないと医療が回らなくなる可能性があります。現在は全国各地に医療機関があり、容易に医療を受けることができます。しかし、今後は医療機関の数が減り、遠方の医療機関に行かなければならない状況になるかもしれません。したがって、早いうちからオンライン診療をはじめとする医療DXの普及を進めておくことが望ましいと私は考えます。

木下翔太郎先生の肖像写真

私自身は官僚として働いていた経験があり、政策や規制に対して強い興味関心を持っています。私が官僚時代に得た知識や経験は、医療DX分野の研究に活かせる強みだと思います。オンライン診療やAIは政策や規制に大きく左右される分野であり、学会や規制改革会議などの場で研究者がエビデンスを提示したり、見解を述べたりすることが非常に重要になってきます。国民にとってより良い医療を提供できるよう、また、医療に関する制度やシステムがより良い方向に向かっていくように今後も尽力してまいります。

出典

  • 1)Stolterman E, et al. Information Technology and the Good Life, Kaplan B et al. (Eds.) Information Systems Research, Kluwer Academic Publishers 2004 ; 687-92
  • 2)厚生労働省:諸外国における医療情報の標準化動向調査報告書 平成31年3月29日
  • 3)厚生労働省:医療分野の情報化の推進について
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/johoka/index.html(2024年10月9日閲覧)
  • 4)厚生労働省:令和5年1月~3月の電話診療・オンライン診療の実績の検証の結果
  • 5)Kishimoto T, et al. Psychiatry Clin Neurosci 2024 ; 78(4) : 220-8
  • 6)Kishimoto T, et al. Contemp Clin Trials Commun 2020 ; 19 : 100649