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- コツを覚えてカンタンにできる!! 学会発表のTips Vol.1
講師:山下 弘毅 博士(医学)
(株式会社Maxwell International 代表取締役)
はじめに
研究の結果を学会で公表することは、その研究結果を「成果」として認められるための第一歩です。それだけでなく研究結果を聴衆に知ってもらい、質疑応答することで新たな発見もあるでしょうし、さらには自身の研究内容を客観的に見直すためのよい機会にもなることでしょう。
しかし、いざ学会発表を!と意気込んでも、スライドやポスターを始めどのような準備をすればよいかが分からず、躊躇してしまっている先生方もいらっしゃるかもしれません。そこで本シリーズは、「コツを覚えてカンタンにできる!!」をテーマとして掲げ、学会発表のTipsを紹介していきます。
分かりやすいスライドや
ポスターの作成がなぜ重要か
研究結果を学会で発表しても、聴衆に理解してもらえずに終わってしまうのは、非常にもったいないことです。発表内容を理解してもらうためには、聴衆に配慮した情報伝達が必要となります。反対に、配慮が不十分な情報伝達は、聴衆にストレスを与え、理解を妨げる要因となってしまう可能性があります。
学会発表では、スライドやポスターを提示しながら研究結果を説明・報告するのが一般的です。その際、スライドやポスターからの「視覚的」な情報は、聴衆にとって内容を理解する上で大きな役割を担います。一般に人間の五感の情報能力は、視覚が80%以上を占めるといわれており1)、視覚から得られる情報量が非常に大きいことが分かります。ですから、どれだけ丁寧に言葉で説明するかよりも、どれだけ分かりやすいスライドやポスターを作成するかの方が重要です。分かりやすいスライドやポスターを作成するためには、文字とともにグラフや模式図などを用いて、言いたいことを視覚化するテクニックやノウハウが欠かせません。
テンプレートの準備
本来、プレゼンテーションは内容で評価されるべきですが、スライドの見た目の印象が評価に影響を与えてしまうことも否定できない事実です。そこで、統一感があり好印象を与えるスライドセットを準備するには、テンプレートの活用がお勧めです。
スライドを作成する際、マイクロソフト社のPowerPointなどのスライド作成ツールを利用される方が多いと思います。PowerPointには様々なデザインテンプレートが「テーマ」として標準搭載されており、気になるテーマをクリックするだけでテンプレートを選択することができます。標準搭載されているテンプレートをそのまま使ってもよいのですが、印象を変えたい場合や使いやすいレイアウトにしたい場合もあるかと思います。そのようなときには、テンプレートを編集して希望にそったものに作り変えましょう。
たとえば、Microsoft 365に標準搭載されている「ファセット」のデザインを使おうと思ったものの、インパクトのある赤をベースにした色合いに変えたい、データを提示できるスペースをもう少し広げたい、と思ったときには、以下のように編集できます。このようにいろいろと試しながら、目的に合ったテンプレートを作成してみてはいかがでしょうか。
Microsoft 365での操作画面を紹介しています。
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上部メニューの「デザイン」から「ファセット」のテーマを選択します。
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次に上部メニューの「表示」から「スライドマスター」を選択し、スライドマスターの編集画面 に移動します。
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つづいて、「配色」で「赤味がかったオレンジ」を選択して赤をベースにした色合いに変えます。
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最後に左右の背景模様の幅を小さくするために、「グループ化」されている模様を「グループ解 除」して幅を調整します。
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このように編集すると、上に示すデフォルトのテンプレートが下のように変わりました。
文字の選び方
視認性の高いフォントは?
テンプレートが準備できたら、次は使用するフォントについて考えましょう。
フォントには、学会発表用スライドに適したものと適さないものがあります。スライドに適したフォントとは、遠くからスクリーンを見ても視認しやすいものです。Microsoft 365に標準搭載されているものの中では、和文フォントではゴシック体としてMS ゴシックやMS Pゴシック、欧文フォントではサンセリフ体としてArialやCalibriなどがあります。一方、スライドに適さないフォントは、線が細く、トメやハネなどの飾りがあるものです。和文フォントでは明朝体としてMS 明朝やMS P明朝、欧文フォントではセリフ体としてTimes New RomanやGaramondなどがあります。また、チラシや商用ポスターによく用いられる遊び心のあるポップ体、和の雰囲気があるものの一目で視認しにくい行書体、ゴシック体であっても線が細い游ゴシックなども学会発表用スライドには不適といえます。
文字サイズはバランスを見ながら「なるべく大きく」
文字の大きさは、遠くからスクリーンを見ても視認できるサイズにするよう心がけましょう。視認性は、実際に発表する環境(会場の広さや聴衆との距離)やスライドの内容、フォントの種類、レイアウトの仕方にも左右されます。私の場合、タイトルスライドのタイトルは48ポイント以上、氏名・所属は32〜36ポイント、そしてコンテンツスライドのタイトルは36ポイント以上、コンテンツの文字は24ポイント以上、注意書きや出典の書誌事項などは14ポイント程度を基本として作成することが多いです。絶対にこうしないといけないというルールではありませんので、全体のバランスを見ながら調節していくとよいでしょう。
色の選び方
背景色とコントラストの強い色がポイント
情報伝達の重要な要素に「色」があることを軽視してはいけません。
背景と文字の色にコントラストの強い組み合わせを選ぶと、視認性を高くすることができます。学会発表では白背景か青背景のスライドセットを使用される先生方が多いと思いますが、白背景には黒い文字、強調したいところは赤色、青背景には白い文字、強調したいところは黄色で示すとよいでしょう。
しばしば、写真の上に文字を置いたスライドを作成される方がいらっしゃいますが、写真のインパクトはあっても文字の視認性が下がってしまうため、効果的でないことが多いです。背景はなるべくシンプルなものがよいでしょう。
ここも知りたい!色の原理、知っていますか?
私たちが視認できる色は、「赤」「緑」「青」の3色(光の三原色)によって表すことができます。赤、黄、緑、青、紫といった色 味の違いのことを色相といい、色相を円状に並べたものを色相環といいます。色相環の反対側に位置する色は補色と呼ばれ、お互いを引き立て合う効果があります。青い背景に黄色い文字が映えるのは、この補色関係にあるからです。
色の鮮やかさの度合いのことは彩度といいます。彩度が高ければ鮮やかな色に、低ければモノトーンに近づきます。また、色の明るさの度合いのことは明度といいます。明度が高ければ白に、低ければ黒に近づきます。
使う色の数は3色がちょうどよい
使用する色の数は3色程度がちょうどよいかと思います。色の数が増えると扱いづらくなってしまう可能性がありますが、3色にするとベースカラー、メインカラー、アクセントカラーとしてうまく使い分けができます。ベースカラーはスライドの大半を占める色、メインカラーは要所に使用して全体のイメージを構成する色、アクセントカラーは特に注目してほしい箇所を目立たせる色です。アクセントカラーは、メインカラーと補色関係にある色を使用すると効果的です。
たとえば白の背景に、メインカラーを青系、アクセントカラーを赤系に設定した場合、右の棒グラフのように主張したいピークの棒にアクセントカラーを用いると効果的に目立たせることができます。
おすすめの配色「ユニバーサルカラー」
配色は、可能であれば色覚異常の方にも区別しやすい「ユニバーサルカラー」を選ぶとよいでしょう。NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構のウェブサイトには、色覚異常の方にも区別しやすいPowerPointの配色パレットが公開されています。ぜひ参考にしてみてください。
NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構(https://www.cudo.jp/)
ここも知りたい!ユニバーサルデザイン
先生方は、「ユニバーサルデザイン」という言葉を聞いたことはありますか?できるだけ多くの人が利用できることを目指したデザインで、その概念は米ノースカロライナ州立大学ユニバーサルデザインセンターのRonald Mace氏により提唱されました。身近にあるユニバーサルデザインの例として、車椅子でも通れる幅広い改札、手に障害があっても無理なく利用できるセンサー式蛇口、誰でも視覚的に認識できるピクトグラム(車椅子のマーク、男性トイレや女性トイレのマークなど)などがあります。学会発表用スライドに応用可能なものとしては、先に述べたユニバーサルカラーとともに、近年誰にとっても見やすく読みやすいユニバーサルデザインフォント(UDフォント)が次々と開発されてきています。可読性や視認性、判読性が高くなるようにデザインされたフォントは、学会発表用スライドにも大いに活用できると思います。実は、私も数年前からUDフォントを使い始めました。有料のものが多いですが、Windows 10にはBIZ UDフォントが標準搭載されています。試してみてはいかがでしょうか。
【参考文献】
- 1)照明学会(編). 屋内照明のガイド 電気書院 1980: 9
講師プロフィール:山下 弘毅 博士(医学)(株式会社Maxwell International 代表取締役)
カリフォルニア大学サンタバーバラ校を卒業後、メディカルライターとして業務を行う傍らで千葉大学大学院へ進学して博士号(医学)を取得。その後は、千葉大学や聖マリアンナ医科大学で教鞭をとったり、学会主催のセミナー等で講師を務めたりなど、後進の指導にも携わっている。米国医療情報学会、米国メディカルライター協会、米国スポーツ医学学会など、複数の学会や団体に所属。