精神科病棟に入院中の患者、特に長期入院中の統合失調症患者には、慢性便秘の症状を有する方が少なくありません。慢性便秘は、患者のQOLを下げるだけでなく看護スタッフにも大きな負担をかけており、本来精神科病棟で行うべき業務に支障をきたすことがあります。精神科患者の便秘の原因は、様々な要因が複雑に絡み合っています(図1)。
図1
精神科入院患者における慢性便秘の主な原因
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まず、ほとんどの抗精神病薬や、抗パーキンソン薬、抗うつ薬などは抗コリン作用を持つため、腸管運動が阻害され便秘が起こることが知られています。これら向精神薬が長期的に腸管にもたらす影響についての報告は少ないのですが、統合失調症の慢性便秘の原因は腸管筋肉を動かしているアウエルバッハ神経叢の萎縮によるものであり(図2)、抗コリン薬の関与が大きく、抗精神病薬の関与はそれほど大きくないと推測されています1。
また、精神科病棟に入院中の患者では極端に運動量が少ないことも便秘の一因となっています。食物繊維は便量を増加させ、それによる機械的刺激が腸管通過時間を短縮させるといわれていますが、病院の給食で十分な食物繊維が供給されているとは限りません。また、習慣的な下剤の投与も原因となります。慢性便秘症診療ガイドラインでも刺激性下剤は有効で、頓用または短期間の投与を提案していますが2、特に刺激性下剤の長期投与は、腸管内の神経叢を変性させるという報告もあり3,4、下剤の処方のしかたが便秘を悪化させていることに、もっと注意を払うべきだと思われます。
図2
消化管の構造
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