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- 寒暖計 ー医療行政のエッセンスー第1回
第1回 オンライン
診療解禁
- 監修:
- 宮島 俊彦 先生
兵庫県立大学客員教授
(元・内閣官房社会保障改革担当室長)
閣議決定までの経緯とオンライン診療のリスク・ベネフィット
2021年6月18日に閣議決定された『経済財政運営と改革の基本方針2021』(いわゆる骨太方針2021)では、オンライン診療について、「幅広く適正に活用するため、初診からの実施は原則かかりつけ医によるとしつつ、事前に患者の状態が把握できる場合にも認める方向で具体策を検討する」とされ、原則解禁の方向が示されました。
もともとオンライン診療は、へき地や離島など医師不足の地域での活用が考えられていましたが、2020年4月、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、できるだけ人との接触を避けるために時限的な特例措置として初診からも利用できるようになりました。その後、菅義偉首相(当時)は初診からのオンライン診療の恒久化を指示したものの、これに対して日本医師会の中川俊男会長は、「利便性のみを優先したオンライン診療の推進は、医療の質の低下につながりかねないので、『かかりつけ医』などを基軸とすべきだ」と主張しました。今回の骨太方針2021は、これまでの議論の経緯を踏まえたものではないかと考えられます。
オンライン診療は、感染予防対策としては非常に効果的で、患者にとっても通院する負担がないなどの利便性があります。ただ一方で、検査や触診ができないため、画面を通してでは見つけることが難しい症状を見落とすなどのリスクがあります。したがって、通常であれば、初診からのオンライン診療はあまりおすすめできないのではないかと思われます。
オンライン診療が恩恵をもたらす3つの場面
では、オンライン診療は、本来どのような領域で患者に恩恵をもたらすのでしょうか。私は、次の3つがあるのではないかと考えています。
1へき地・離島での診療
第1は、先に述べたとおり当初予想された、へき地や離島など医師不足の地域の診療においてです。オンライン診療ができれば、無理をしてへき地に診療所を開設する必要はなくなりますし、オンラインであれば、専門医に相談することも可能です。
2要介護高齢者の在宅医療
第2は、要介護の高齢者に対する在宅医療です。高齢者の多くは、高血圧や糖尿病、眼科疾患、腰痛、皮膚疾患など複数の病気を治療するために、あちこちの医療機関を受診しています。また、要介護の高齢者であれば、付き添いも必要になります。こうした要介護の高齢者やその家族の負担も、オンライン診療であれば医師の指示のもとで訪問看護師が日常的なケアに当たれますので、かなりの軽減が期待されます。
3長期ケア施設での診療
第3は、介護医療院、介護老人保健施設(老健)、特別養護老人ホーム(特養)などの長期ケア施設での診療です。今は、常勤あるいは嘱託医師の配置が必須ですが、オンライン診療でかなり代替できます。さらに専門医によるオンライン診療が可能になるとともに、オンライン診療による施設での看取りも、今まで以上に普及するのではないでしょうか。
オンライン診療が長期ケア施設の抱える課題を改善する可能性
もっと言えば、日本の長期ケア施設の抱える複雑さや、それにともなう利用者の負担を改善する可能性もあるのではないでしょうか。そもそも日本の長期ケア施設の類型が、前述の3施設のほか、医療療養病床、介護療養病床まであって複雑怪奇なのは歴史的な遺物にすぎません。
いわゆる“福祉元年”と言われる1973年に『老人医療費支給制度』を創設し、高齢者医療の無料化を実施したところ、一般病院への社会的入院が急増しました。
「これではまずい」ということになり、医療系では療養病床や老健、福祉系では特養の整備が後追いで図られてきました。この過程において、日本の長期ケア施設は、医師や看護師の数によって施設類型が異なる奇妙な構造になってしまいました。これは利用者にとってわかりづらいだけでなく、病状やリハビリの回復程度によって施設間を移動しなければならない不都合を生んでいます。
しかし、長期ケア施設でオンライン診療が導入されれば、看護師が患者の病状を日常的に管理し、必要に応じて、平時はオンラインで医師の診療を受け、病状急変時は医師が往診する対応が可能になります。そうなれば医師の常勤配置は必要なくなるので、医師の配置体制によって施設類型を別々にしていた仕組みに意味はなくなり、日本でも諸外国同様、長期ケアはナーシングホームに一元化され、利用者は同じ施設で療養をつづけられるようになることが期待されます。
しばらくは、試行錯誤がつづくと思われますが、オンライン診療は外来診療と在宅医療、さらには長期ケア施設の領域においても、大きな変化をもたらしてくれそうです。
監修者プロフィール:宮島 俊彦 先生[兵庫県立大学客員教授(元・内閣官房社会保障改革担当室長) ]
1977年3月東京大学教養学部教養学科卒業。同年4月厚生省入省。1989年4月山形県生活福祉部社会課長。1998年7月厚生省大臣官房組織再編準備室長。2001年以降は厚生労働省保険局国民健康保険課長、同省大臣官房人事課長、同省大臣官房会計課長、同省大臣官房審議官(保険・医政担当)、同省大臣官房総括審議官、同省老健局長を歴任後、2012年9月厚生労働省退職。その後、内閣官房社会保障改革担当室長等を経て現在は、兵庫県立大学客員教授、日本製薬団体連合会理事長、東京女子医科大学監事、介護経営学会監事など
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