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- コツを覚えてカンタンにできる!! 論文執筆のTips Vol.1
講師:山下 弘毅 博士(医学)
(株式会社Maxwell International 代表取締役)
はじめに
先生方は、日常臨床において漠然とした疑問を感じることはありませんか?このような疑問はclinical questionと呼ばれ、医学研究の出発点になります。clinical questionに遭遇したとき、すでに他の誰かによってその疑問に対する答えが明らかにされている場合もあるでしょう。しかし、そこからさらなる疑問が生じ、次にどのようなことを明らかにすべきかという研究の対象となる疑問(research question)が導き出されると、それを研究のテーマとして設定することができます。
研究者が自らの研究成果を論文として公表することは、研究活動の中でも非常に重要な役割を担っていますし、研究者でなくとも、論文を書くことは自身の臨床を振り返る上で非常に有用だと思います。そこで本シリーズは、「コツを覚えてカンタンにできる!!」をテーマとして掲げ、論文執筆のTipsを紹介していきます。
論文とは何か
まず先生方は、「論文」とはどのようなものを指すと思いますか?言語学者の東郷雄二氏は、 論文とは『特定の学問上の問題について、十分な論拠をもとにして、主張や証明を行う、論理的に構成された著作』であると、著書の中で述べています1)。すなわち、論文とは「疑問に対する答え」を論理的に述べていくものです。また、論文は「書いて終わり」ではなく、公表されることで新たな議論が生まれ、それに基づいてさらなる研究へと続いていきます。
論文の定義は、こう考えよう ~論文とは「こういうものではない」~
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論文はエッセー・随筆ではない
論文は、エッセー・随筆のように作者の感じたことが読者にも何となく感じられればよいものではなく、客観的な根拠を挙げながら論証しなくてはならない。
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論文はひとりよがりの文章ではない
論文は、自分が読んでわかるようにではなく、不特定多数の人が読んで理解できるように書かなくてはならない。
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論文は読書感想文ではない
論文は、研究対象の著作物を読んだ感想を書いたものではなく、明確に設定された問いに答えるものでなくてはならない。
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論文は芸術作品ではない
論文は、芸術作品のような凝った文体や詩的な飛躍や比喩などは必要ない。学問上の主張を行い読む人を説得することを目的としているため、わかりやすく論理的な文章でなくてはならない。
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論文は先行研究のまとめではない
論文は、調査した先行研究をまとめただけではなく、取り扱う学問上の問題について、自分自身の主張すべきことがなければならない。
- 東郷 雄二. 新版 文科系必修研究生活術 筑摩書房 2009; 156-8
なぜ論文を書くのか
論文の執筆は、容易なことではありません。莫大なエネルギーと時間を要しますし、書き始める段階に進むことさえ、なかなか大変なのです。本コンテンツに興味を持たれた先生方にとって、論文を書きたいと思う理由は何ですか?その答えは人によってさまざまかと思いますが、以下のいずれかに当てはまる方が多いのではないでしょうか。
情報の公開
他の医療従事者に活用してほしい
先生方が見つけた新たな医学的情報は、論文として世の中に広く公表されることで初めて、他の医療従事者がアクセスして活用できるようになります。すなわち、論文として公表することは、世の中に有益な情報を残すことになります。
医学の発展に貢献したい
論文として残された医学的情報は、evidence-based medicine(EBM)と言われるように、現代医学の発展に貢献します。新たな治療法は臨床研究の結果を経て導入されますし、導入された治療法の有用性を評価するために、さらなる臨床研究が行われます。これらの研究成果はすべて論文として世の中に公表されます。しかし論文として公表されず、すべての情報がブラックボックスの中に閉ざされてしまうと、その臨床研究は実施されなかったも同然なのは想像に難くありません。
研究者の責務として
ヒトを対象とした医学研究を実施する場合、ヘルシンキ宣言2)において、その研究結果を一般に公表する義務が課せられます。つまり単にデータを集積するだけでなく、その結果を学会で報告あるいは論文として公表するまでを、医学研究の一連の流れとして考える責務が生じます。
研究結果に有意差が出たときは結果を公表したいと考える一方で、有意差が出ずにネガティブな結果に終わった研究結果は公表したくないという研究者が一部におられます。しかしネガティブな結果であっても、「想定した結果を伴わなかった事例」として臨床現場にとって有益な情報となり得ますし、次の研究へとつながる可能性もあります。ですから、結果がポジティブでもネガティブでも、公表することは研究者の重要な責務なのです。
自身のキャリアアップ
アカデミアの世界では、自身の業績は主に論文によって評価されます。要するに、論文は研究活動の証でもあるわけです。
ここも知りたい!「学会での発表」と「論文としての発表」
研究結果の報告には、大きく「学会での発表」と「論文としての発表」があります。「学会での発表」は速報としての意味合いが強いため、厳格な査読(peer review)のプロセスを経ていない場合がほとんどです。したがって、学会での発表だけでは研究成果として十分に評価されず、より重要なのは「論文としての発表」になります。
ここも知りたい!「査読あり」の重要性
論文として公表されるためには、査読のプロセスを踏まなければなりません。査読とは、投稿された論文をそれぞれの分野の専門家が科学的・学術的観点から評価することで、各ジャーナルが設定している基準に合致した論文のみを出版するためのプロセスです。査読を経て出版に至った論文は一定のクオリティーが担保されているとみなされることが多く、アカデミアでキャリアを積んでいくにあたっては査読のあるジャーナルに掲載された論文が重要視されます。
最近では“ハゲタカジャーナル”と呼ばれる掲載料を払えば論文を掲載してくれるジャーナルや、商業誌のように査読がないジャーナルも多く存在し、これらは区別して考える必要があります。研究者が論文目録(業績)の提出を求められたときに、リストに挙げた論文のうち査読のあるジャーナルに掲載されたものについてはきちんと「査読あり」と明記することがあります。「査読あり」と明記することの意味について、きっと先生方にもご理解いただけたことと思います。
情報や思考の整理
頭の中でなんとなく考えることはいくらでもできるのに、それを文字に起こすのはとても苦労した、そのような経験はありませんか?論文を書くという行為は、先行研究の情報や自身の思考を整理することにもつながります。
言いたいことを伝えるとき、口頭ならばジェスチャーを交えるなどして、なんとなくでも相手に伝えられることが多いと思います。しかし文章ではそうもいかず、整理できていない情報や曖昧な思考はうまく書くことができません。論文を書くためには、まず先行研究の報告などから「すでに明確になっていること」と「未だ明確になっていないこと」をきちんと整理する必要があります。また、研究の方法論や結果、さらに結果から言えること・言えないこと(結果の解釈や考察)を論理立てて説明していくことも求められます。こうして1つの論文を書き上げるころには、そのテーマに関連する情報や思考がきちんと整理された状態になるわけです。
世界は広い!
英語で論文を書くということ
日本語論文と英語論文、どちらを選ぶか
日本語で書く論文と、英語で書く論文、先生方はどちらを選択しますか?日本語で書いた論文の英語版を作成して別のジャーナルへ投稿する、またはその逆の流れでの投稿は「二重投稿」に該当し、禁止されています。そのため、論文を書くにあたっては、どの言語で書くか選択する必要があります。もちろん、どちらが正しいといった答えはありません。それではなぜ、日本語を母国語とする日本人が、わざわざ労力のかかる英語で論文を書くという選択をするのでしょうか。
いうまでもありませんが、論文が臨床やさらなる研究に活用されるためには、他の医療従事者がその論文にアクセスして読む必要があります。つまり日本語で書かれた論文は、日本語を母国語とする研究者や医療従事者が(日本語に精通する海外の方も一部いらっしゃるかもしれませんが)議論を重ねるためには重要な役割を担いますが、国際的なプレゼンスはさほど期待できません。どれだけ優れた研究成果であっても、その論文が日本語で書かれた場合、国際的にはその存在を認識されない可能性すらあるのです。
世界基準の活躍の場を目指して
想像してみてください。世界には英語を実用レベルで使用可能な人が、非ネイティブも含めて約17.5億人います3)。英語で書かれた論文は、世界中で多くの人の目にとまり、有用な情報として活用されます。さらに、インパクトファクターが高いジャーナルに掲載されれば、その論文を執筆した先生は優秀な研究者として世界中で高く評価されることとなるでしょう。世界を活躍の場として目指しませんか。
【参考文献】
- 1)東郷 雄二. 新版 文科系必修研究生活術 筑摩書房 2009: 156-8
- 2)World Medical Association. JAMA. 2013; 310: 2191-4
- 3)Harvard Business Review. https://hbr.org/2012/05/global-business-speaks-english. accessed 2021年6月1日.
講師プロフィール:山下 弘毅 博士(医学)(株式会社Maxwell International 代表取締役)
カリフォルニア大学サンタバーバラ校を卒業後、メディカルライターとして業務を行う傍らで千葉大学大学院へ進学して博士号(医学)を取得。その後は、千葉大学や聖マリアンナ医科大学で教鞭をとったり、学会主催のセミナー等で講師を務めたりなど、後進の指導にも携わっている。米国医療情報学会、米国メディカルライター協会、米国スポーツ医学学会など、複数の学会や団体に所属。