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- コツを覚えてカンタンにできる!! 文献検索のTips Vol.1
講師:山下 弘毅 博士(医学)
(株式会社Maxwell International 代表取締役)
はじめに
近年は臨床研究から得られるエビデンスに基づいた医療、すなわちEBM(evidence-based medicine)が重要視されるようになり、臨床現場では文献を活用する能力が以前にも増して求められるようになりました。いまや文献検索は、医師だけでなく医療従事者にとって必須のスキルといえます。しかしそのノウハウを学ぶ機会はほぼないため、文献検索を「難しい」「億劫だ」と感じている方や、文献検索をしても思うように欲しい情報を見つけられず困っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし心配は御無用!調べたいソースに応じてデータベースを選ぶスキルや、キーワード設定・検索式の作成などの知識を身につけることで、より効率のよい文献検索が可能です。そこで本シリーズは、「コツを覚えてカンタンにできる!!」をテーマとして掲げ、文献検索のTipsを紹介していきます。
文献検索の目的は
まず、なぜ文献検索が必要なのか、その目的について考えてみましょう。
最良の医療を提供するため
医学は日進月歩です。最良の医療を提供するためには、必要な情報を収集し知識の研鑽に努めなければなりません。臨床上の疑問に遭遇したときに、専門書などから情報を得る、先輩や他の医師の経験に基づいたアドバイスを受けるといったことは、誰しも経験してきたことだと思います。しかし、これらの情報ソースは最新の科学的情報を反映しているとは限りません。なぜなら、新たな知見が一般臨床に浸透するには長い期間を要するからです。
また、近年はニュース記事として配信された最新情報が非常に簡便に入手できますが、このような二次情報は配信者の解釈やバイアスが入っていたり、一次情報に対する配信者の理解度に左右されていたりする可能性があるため、十分な信用に足る情報ソースとは言い難いのが実情です。
したがって、文献検索によって一次情報である原著論文を見つけることが、信頼できる最新の科学的情報を得るための一番の近道なのです。
研究においてclinical questionからresearch questionを導くため
文献検索は、研究を行う上でも必要なスキルです。臨床上の疑問(clinical question)に遭遇したとき、自らの知りたいことが他の誰かによってすでに明らかにされている可能性を探るために、文献検索を行います。
clinical questionは、すでに明らかにされている場合もあれば、未だ十分な知見が得られていない場合もあります。そこで、次にどのようなことを明らかにすべきかという、研究の対象となる疑問(research question)が導き出されます。
研究を始める際には、その分野ですでに明らかになっていることと、未だに明らかになっていないことを整理する必要があり、そのために文献検索が必要なのはお分かりいただけると思います。
ここも知りたい!知りたい情報に応じたソースの使い分け
すでに確立された体系的な知識を得るには、専門書を読むことが近道です。国内で出版されている図書であれば、たとえば国立国会図書館のデータベース(NDL ONLINE:https://ndlonline.ndl.go.jp/)を用いて検索できます。国立国会図書館は日本唯一の法定納本図書館で、納本制度に基づき国内で出版されたすべての出版物を収集・保存しています。
最近の研究の動向を調べる際は、レビュー論文を参照するのが効率的です。レビュー論文には先行研究の知見がまとめられているので、個々の原著論文を読まなくても研究動向をおおかた把握できます。
最新の研究の結果を得るには、やはり原著論文を参照する必要があると思います。
エビデンスの階層:
6Sピラミッド
文献検索の前に知っておいていただきたいこととして、DiCenso氏らが提唱したエビデンスの階層(6Sピラミッド)1)があります。
6Sピラミッドのそれぞれの階層のエビデンスは、その下の階層のエビデンスを用いています。つまり、一番上の階層に該当する文献から検索を開始すると、最も質が高くかつ総合的なエビデンスを迅速かつ効率的に見つけることができるのです。
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Systems
臨床上の問題に関する重要なエビデンスを統合して簡潔にまとめたもので、CDSS(コンピュータ化意思決定支援システム;computerized decision support systems)が該当します。エビデンスと個々の患者の電子カルテデータがリンクされており、重要なエビデンスが得られるとシステムが更新されるので、臨床的な意思決定の裏付けとして非常に重要です。
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Summaries
エビデンスに基づいた情報をまとめた、定期的にアップデートされるソースです。各種診療ガイドラインや専門書、UpToDateなどが該当します。
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Synopses of syntheses
特定の分野におけるシステマティックレビューの情報を統合したものです。質の高いシステマティックレビューの知見が要約されているので、臨床上の意思決定に役立ちます。British Medical JournalのEvidence-Based Medicineや、The Database of Abstracts of Reviews of Effects(DARE)などが該当します。
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Syntheses
一般にシステマティックレビューと呼ばれる、臨床上の疑問に関連するすべてのエビデンスを包括的にまとめたものです。The Cochrane Libraryなどが該当します。
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Synopses of single studies
質の高いsingle studiesの情報を統合したものです。
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Single studies
一定の質が担保された単一の試験の情報で、PubMedなどの文献データベースが該当します。
効率的な検索方法
シソーラスとは
PubMedなどで文献検索をするとき、キーワードをなんとなく決めて検索ボックスに入力し、検索している方はいませんか?この方法でもそれなりに検索することができますが、キーワードが体系化されておらず(フリータームといいます)、やや効率が低下します。そこで効率的な検索に便利なのが「シソーラス」です。
シソーラスとは、単語の上位/下位、部分/全体、同義・類義などの関係性によって体系化されたものです。PubMedでは、“Medical Subject Headings(MeSH)”として自動マッピング機能を有しています2)。たとえば乳癌について「Breast cancer」をキーワードにして検索すると、図のように類似した概念のワードでも自動的に同時に検索します。すなわち検索ワードが「Breast cancer」でも「Breast carcinoma」でも、乳癌関連の文献を検索できる仕組みです。また、MeSHは階層構造になっており、上位に行くほどより広義に、下位に行くほど狭義になります。そこで、たとえばあるキーワードをMeSHで文献検索をしたとき、ヒット件数が少なすぎた場合は1つ上位のキーワードで再検索する、多すぎた場合はその逆、といった工夫も可能です。
このように、MeSHは同概念のワードを同時に検索してくれる便利な機能ですが、最新の医学用語についてはまだ登録されていないということもあるため、注意が必要です。最新の医学用語を検索ワードとしたい場合には、MeSHのみの検索では心許ないため、フリータームとしても検索してみるとよいでしょう。
フリータームやシソーラスを用いた検索方法のTipsは次回以降でご紹介します。
【参考文献】
- 1)DiCenso A, et al. Evid Based Nurs 2009; 12: 99-101
- 2)National Center for Biotechnology Information, U.S. National Library of Medicine. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/mesh/ accessed 2021年6月1日.
講師プロフィール:山下 弘毅 博士(医学)(株式会社Maxwell International 代表取締役)
カリフォルニア大学サンタバーバラ校を卒業後、メディカルライターとして業務を行う傍らで千葉大学大学院へ進学して博士号(医学)を取得。その後は、千葉大学や聖マリアンナ医科大学で教鞭をとったり、学会主催のセミナー等で講師を務めたりなど、後進の指導にも携わっている。米国医療情報学会、米国メディカルライター協会、米国スポーツ医学学会など、複数の学会や団体に所属。