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多領域、多職種からのアプローチ
2020年05月26日公開(2021年10月1日デザイン改訂)
西田医院 理事長
東京都医師会理事
西田 伸一先生

本記事の内容は2020年3月時点の情報に基づく
- 在宅療養生活における多職種協働による排便管理
- まとめ
在宅療養生活における多職種協働による排便管理
団塊世代の高齢化と75歳以上の死亡率低下により、超高齢社会が続き高齢者多死社会が今後数十年で進みます。平均寿命は年々延伸していますが、健康寿命は伸び悩んでおり、男性で約9年、女性で約12年の不健康な期間が存在します(図)1, 2。健康寿命の延伸が重要課題ですが、同時に要介護者への支援の充実も必要であると考えられます。慢性疾患や身体機能の低下により、通院困難だが入院加療は必要のない方、あるいは入院を希望されない方の療養生活は、一般的には自宅か施設で行われます。このため、在宅医療ニーズは今後さらに高まることが予測されており、地域医療を担うすべての医療者に取り組みが求められます。今回は、要介護状態での在宅療養において常に課題となる排便管理について概説します。

加齢に伴い、座位あるいは臥位で過ごす時間が増えて運動量が減少すると、エネルギー必要量が少なくなるため3、食欲が低下し食事量は減少します。同時に、咀嚼・嚥下力低下や、歯を含む口腔内のトラブル、認知機能の低下やうつ状態によっても摂食機能が低下し、摂食量は低下します3。誤嚥を伴うようになれば、食形態も変化し、残渣が少ない食材が増えてしまいます。また、高齢者には多剤服用者も多く、副作用として食欲低下4や摂食嚥下機能低下や消化管蠕動の低下も多くみられます。食事量が減れば当然便の量も少なくなり、運動量が少ないために便の移動も遅くなり、便が腸内に長時間貯留すれば水分が吸収されて硬くなります。
また、腹筋力も弱く腹圧をかけにくくなりますので、便は下部結腸に貯留します。もともとS状結腸の長い慢性便秘症の方では、さらに問題が深刻化します。また、自力でトイレに行けない方でオムツでの排便や排便行為に他人が介在することに抵抗感の強い方の場合、排便自体を避けるようになります。そのために、食事や水分摂取を拒否する方もいます。長期間便秘が持続すると、閉塞性イレウスを起こして嘔吐や腸管内圧上昇による菌血症をきたす場合もあるため、定期的な排便調整は必須となります。
排便管理では、排便に関する正しい知識と自覚を本人に持ってもらうことが第一歩です。認知機能の低下した方に対しても、わかりやすく端的に、かつ時間をかけて繰り返し説明することが重要です。介護拒否が、排泄介護から始まることも多々あります。本人の理解と協力のもと、在宅での日常生活における排便管理は家族が行うことになりますが、これを訪問看護師が中心的に支援し、看護師の指導の下で訪問介護士もサポートします。トイレまでの動線をバリアフリー化したり、歩行不能であればベッドサイドにポータブルトイレを置いたりします。朝食後に定期的に便器に座ってもらうことが、規則正しい排便習慣をつけるのに有効なこともあります。エネルギー必要量に応じて、十分な食物繊維を含み、かつ食思を促し、誤嚥しにくい適切な食形態を管理栄養士が指導します。理学療法士は、リハビリテーションにより四肢体幹機能を維持し、生活にメリハリを与えて活力を上げるよう支援します。言語聴覚士は、摂食・嚥下機能のリハビリテーションや食事の姿勢等について指導します。作業療法士は、少しでも自分で楽しく食事ができるよう、生活動作に重点を置いたリハビリテーションを行います。さらに、歯科医師は歯科衛生士とともに口腔内環境を整え、口腔内の清潔を維持して肺炎を予防し、義歯を調整し、総合的に食支援を行います。主治医はこれら多職種とともに、総合診療的視点で本人・家族を支えます。処方薬を確認し、排便を阻害する副作用を有する薬剤4を減薬することも重要です。
上記を前提に、さらに排便を促す薬剤の使用が必要となることも多々あります。筆者は、腸管内に長時間残留しても便の水分を維持できるようマグネシウム製剤を処方することから始めることが多く、いずれの方法でも適切な排便が得られない場合には、刺激性の下剤を使用します。結果的には各種下剤を併用しなければ排便調整できないことが大半ですが、下痢やそれに伴う介護による不快感で精神状態が悪化する方も多く、仙骨部に褥瘡を合併しているような衰弱の著しい方には清潔管理の上でも問題を生じます。近年、様々な作用機序によって排便を促す優れた薬剤が開発されており、薬剤の選択肢は増えていますが、臨床の場面で使用手順について標準化することはなかなか困難です。排便管理に関するガイドライン等も参考にしつつ、現場でケースバイケースで対応するしかないように思われます。著者は看護師との連携によって薬剤を随時調整するようにしており、関係する多職種と同時に情報共有ができるよう、医療介護連携用のSNSを利用しています。
以上のように、排便管理は食べる前から排便までの一連のプロセスを多職種でテーラーメイドで取り組む必要があり、円滑な排便管理を実現するには、日頃からの他職種との意思疎通が欠かせません。
- 在宅要介護高齢者における慢性便秘の原因は、運動量の低下、食事量の低下、摂食機能や認知機能の低下、排便行為に他人が介在することへの強い抵抗感等、多岐にわたる
- 排便を促す薬剤の選択肢は増えているが、ケースバイケースの対応が必要である
- 排便管理には、日頃からの他職種との情報共有等による意思疎通が欠かせない
文献
- 1「平成28年版 厚生労働白書」厚生労働省; p13
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/16/dl/all.pdf - 2「健康寿命のあり方に関する有識者研究会 報告書」厚生労働省; p36
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000495323.pdf
- 3「日本人の食事摂取基準(2020 年版)」厚生労働省; p16, p84
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf - 4「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」厚生労働省; p7
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11125000
-Iyakushokuhinkyoku-Anzentaisakuka/0000209385.pdf

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