「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版」では、痛風や高尿酸血症の治療において、薬物療法の有無を問わず生活指導が重要であることが示されています1)。生活指導には食事や飲酒制限と共に運動が含まれており、同ガイドラインにおいても「運動は肥満防止、メタボリックシンドロームの抑制に推奨され、特に適切な強度の有酸素運動が勧められる。」とされています1)。
一方、運動は高尿酸血症をきたすおそれがあります1)。18~23歳の大学の一般運動部員207名と20~29歳の社会人4名(合計211名)を対象に、スポーツの種目ごとに高尿酸血症(血清尿酸値≧7.5mg/dL)の有病率を検討した結果によると、種目に応じて有病率は0~25%、平均血清尿酸値は4.32~6.57mg/dLと、幅があることが示されました2)。
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痛風や高尿酸血症の治療において、
運動を含む生活指導の重要性が
指摘されています。
一方で運動は場合によっては
高尿酸血症をもたらすため、
痛風・高尿酸血症の改善のためには、
適切な強度での有酸素運動を行う
必要があります。
そこでここでは、
スポーツと高尿酸血症の
関係に関するデータや
考え方、運動強度など
についてご紹介します。
スポーツの種目ごとの
高尿酸血症(血清尿酸値≧7.5mg/dL)有病率
激しい運動が血清尿酸値にもたらす影響
運動の中でも、特に短時間の激しい運動は血清尿酸値を上昇することが「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版」で述べられています1)。
20~23歳の大学柔道部員男性を対象に、3段階の強度で運動をした後の血清尿酸値の推移を検討した結果によると、最大負荷の運動は、終了30分後、1、2、3、5時間後においてベースラインに対して有意に血清尿酸値が上昇しました(30分後:p<0.01、1・2時間後:p<0.02、3・5時間後:p<0.05 vs. ベースライン、対応のあるt検定)3)。最大負荷の運動後における血清尿酸値の最大変化量は、終了1時間後における+155.7±39.9µmol/L(+2.62±0.67mg/dL)でした3)。
激しい運動が高尿酸血症をもたらす機序
運動によって筋肉が嫌気性代謝に傾くと乳酸が大量に産生され、腎臓の近位尿細管に存在するURAT1が活性化します。URAT1は乳酸を尿中に排泄するとともに尿酸を体内に再吸収するため、高尿酸血症を招くと考えられます4)。
また、筋肉内のATPが分解されると、ヒポキサンチン(尿酸の前駆物質)が筋肉内で産生されます。ヒポキサンチンは肝臓において尿酸に代謝され、高尿酸血症を招くと考えられます4)。
運動や生活習慣と運動強度
(メッツ)
厚生労働省が作成した「生活活動のメッツ表」は、日常生活におけるさまざまな身体活動や運動ごとの「メッツ」をまとめたものです5)。たとえば「階段を上る(速く)」は8.8メッツで、「サイクリング(約20km/時)」の8.0メッツよりも強度が強いとされています5)。一方で「ストレッチング」は2.3メッツで、同じような強度の身体活動として「子どもと遊ぶ(座位、軽度)」(2.2メッツ)や「ゆっくりした歩行(平地、遅い=53m/分)」(2.8メッツ)などがあります5)。
「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版」によると、「運動強度は嫌気性代謝閾値の40~50%程度がよいと考えられる。具体的には歩行、ジョギング、サイクリング、社交ダンスなどの有酸素運動を脈が少し速くなる程度に行い、少なくとも10分以上の運動を合計1日30分以上または60分程度行うことが適している。」と記載されています1)。痛風・高尿酸血症患者さんの生活指導においては、このことを踏まえて運動強度を決める際に、「生活活動のメッツ表」が参考になります。
まとめ
-
スポーツの種目ごとの、
高尿酸血症(血清尿酸値≧7.5mg/dL)の有病率や平均血清尿酸値が
報告されています。 -
運動強度が強いと高尿酸血症を招くおそれがあり、
その機序は乳酸によるURAT1活性化を介した尿酸排泄の低下と、
ヒポキサンチンを介した尿酸産生の増加が考えられます。 -
身体活動や運動の強度(メッツ)を示した「生活活動のメッツ表」は、痛風・高尿酸血症患者さんの生活指導において参考になります。
文献
1)日本痛風・尿酸核酸学会ガイドライン改訂委員会 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版 診断と治療社 2018 : 141-4
2)伊藤朗ほか 尿酸 1986 ; 10 : 65-74
3)小笠原正志 体力科学 1988 ; 37 : 85-92
4)久留一郎. “C. 運動療法の実際” Dr.ヒサトメのかかりつけ医のための高尿酸血症・痛風診療Q&A 診断と治療社; 2021: 155
5)厚生労働省:生活活動のメッツ表(2023年8月版) https://e-kennet.mhlw.go.jp/wp/wp-content/themes/targis_mhlw/pdf/mets.pdf
[2024年8月閲覧]