- 医療関係者向けホーム
- 医療関連情報
- OG SCOPE with TEENs

2025年09月24日公開


ご略歴
- 産婦人科専門医・医学博士
- 京都大学医学部卒業
- 東京大学大学院にて医学博士号を取得
- 双子を含む4児の子育て中
みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト 代表 / みんリプ!みんなで知ろうSRHR 共同代表 / メディカルフェムテックコンソーシアム 副代表
診察・検査の不安に
どう応えるか〜
小中高生の受診を後押しする診療と情報発信 〜
Inaba Clinicは、東京・渋谷駅に直結した複合施設内にあります。幅広い年代の方が仕事の合間や買い物・食事のついでに受診できる好立地で、小中高生の患者さんも多く訪れます。加えて、Inaba Clinicが小中高生の心を掴んでいるのは、立地のみならず、受診ハードルを下げるためのさまざまな取り組みがあってこそです。今回は院長の稲葉可奈子先生に、小中高生をはじめとした患者さんの診療に関するお考えを伺いました。

産婦人科受診の
ハードルを上げている要因
小中高生の多くは、月経に伴う不調に悩まされています。月経随伴症状のうち、月経痛は月経中の痛みであるため誰でも認識しやすい症状ですが、PMS(月経前症候群)については異常だと気付かない場合も少なくありません。知識の不足と認識の遅れ、また症状に気付いたとしても「月経に伴う不調は仕方がない」と放置しがちになってしまうことが、受診に結び付かない一因と考えられます。
ただし近年は、多くの産婦人科医の先生方が情報発信されていることもあり、小中高生や保護者の知識が少しずつアップデートされてきていると感じます。
病識を得て、薬物療法で良くなるかもしれないということに気付いて、「病院に行ったほうが良いかな」と思ってもらえると一歩前進なのですが、そこで「産婦人科ってなんだか怖くて行きづらい」「どんな検査をされるかわからないし…」と、躊躇してしまう方が多いようです。診察・検査の様子が見えないことによる不安が、受診のハードルを上げる大きな要因になっていると思います。
私が当院を開業したのは、産婦人科受診のハードルを下げて、小中高生から高齢者までのすべてのライフステージの女性が気軽に受診できる、受診したくなるようなレディースクリニックを目指したいという想いがあったからなのです。

診察・検査の内容を
伝えることで、
受診の不安を取り除く
産婦人科受診経験のない方に受診してもらうには、どのような診察や検査をするのか、とくに内診台での検査への不安を払拭できる情報を伝えることが大切だと考えています。そこで当院はWebサイトで、受診した場合の診察・検査の内容をわかりやすく紹介しています。例えば「月経痛・PMS・過多月経などの相談であれば内診を行わない場合がほとんどであること」、「性交渉の経験がない方には、経腟エコーではなく、まず経腹エコー検査を行うこと」などを記載しています。患者さんにお話を伺うと、当院のWebサイトを見て、自分には内診台での検査が必須ではなさそうだとわかり、受診を決めたケースは少なくないようです。
実際の診察においても、Webサイトと同様に不安を解消できるような説明を心がけています。もちろん、必要があれば内診台での検査を行いますが、その場合もなぜ必要なのかを丁寧に伝え、納得いただいた上で実施しています。これは小中高生に限らず、すべての患者さんに対して日常的に行っていることです。
その他に患者さんから伺った経験談として、月経痛に悩んでいる小中学生が産婦人科を受診しようとしたところ「小中学生は診ていない」と言われた、あるいは診てもらえても「まだ若いから経過観察しましょう」と積極的に治療介入してもらえなかった、という声も聞きました。そこで当院のWebサイトには「小中学生でも受診して良いんだよ」「痛みがあれば治療できるんだよ」というメッセージを載せていますし、成長に対する影響をきちんと説明して、小中学生にも必要に応じて薬物療法を行います。

月経に悩むことなく
快適な学生生活を送ってほしい
当院を受診される小中高生の症状は、多くが月経痛、月経不順、過多月経、PMSです。重症度や希望に応じて薬物療法を提案します。小中高生の薬物療法に対する知識は「なんとなく知っている」という程度で、効果や副作用を説明すると「楽になるなら使ってみたい」と希望する方もいれば、「ちょっと副作用が心配」という方もいらっしゃいます。最終的に本人あるいは保護者とのご相談で決めていただきます。
産婦人科を受診するタイミングは、年齢に関係なく、本人がつらいと感じたときに来ていただければ良いのですが、毎月の月経でつらい思いをしていると、学業や課外活動に支障が出てしまう可能性があります。大切な行事や受験などが差し迫らないとなかなか足が向かないものでしょうが、本当はそういったイベントのためというよりも、日常生活を普通に送れることを目指して、早めに受診していただけると良いなと思っています。実際、受験をきっかけに当院を受診し始めた患者さんから、「学生生活が本当に快適になった。受診して良かった」と嬉しい感想を頂いたことがあります。そうした声は私の励みにもなりますし、もっと多くの小中高生に受診のメリットを伝えていきたいですね。
また、とくに症状がなくても、月経の状態を確認するためだけに受診していただくのも良いと思っています。問題がないとわかれば、安心して月経と付き合っていくことができるでしょう。そうした気軽な受診をきっかけとして、産婦人科を身近に感じていただければ本望です。

SRHRを尊重した
診療の広がりに期待
月経に関する悩みは日常生活の質を大きく下げてしまうものであるにもかかわらず、多くの女性が我慢してやり過ごしてしまいます。また「若いうちは我慢するもの」という風潮も根強いかもしれません。しかし一方で、“年齢にかかわらず、すべての人は自分の性や生き方を自分で決める権利がある”というSRHR(Sexual
and Reproductive Health and
Rights:性と生殖に関する健康と権利)の概念が広がりつつあります。この中に、誰もが月経に関する悩みを我慢する必要はなく、自らの自由意思で対処法を選択できるという考え方が含まれています。
SRHRを尊重した診療が広まるためには、より多くの産婦人科で、小中学生も含めた10代の患者さんを積極的に受け入れていただくことが理想だと思います。そして、若いからといって月経の治療はまだ早いと決めつけず、少しでも症状を緩和できる治療法を患者さんとご検討いただければ、月経に振り回されることなく快適に過ごせる患者さんが増えると期待しています。
私自身、開業してまだ1年ではありますが、受診いただくことでQOLが上がるはずの潜在的な患者さんたちに向けた情報発信と日常診療に、手ごたえとやりがいを感じています。これからも、小中高生から更年期以降の方まで、あらゆる年代の女性の健康と未来をサポートしていきたいと考えています。


2025年9月作成
17987-1 60 GT