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よりぬき産婦人科トピックス

2021年12月7日公開(2022年10月25日変更)

子宮内膜症と骨疾患

太田 郁子先生

太田郁子ウィメンズクリニック 院長

本コンテンツは、OG SCOPE Vol.10 No.3 臨床最前線(2020年3月発行)の記事を一部再編集しております。

はじめに

現在子宮内膜症の治療概念は「最大限の薬物療法を閉経まで継続し、コントロールが不良な場合は手術療法を施行することで、反復手術を最大限回避することが勧められる」とされています。したがって、子宮内膜症の薬物療法は長期にわたって施行される必要があります。その薬物療法にはダナゾール・Gn-RHアゴニスト/アンタゴニスト※1による偽閉経療法とLEP(low dose estrogen progestin)・プロゲスチン製剤による偽妊娠療法があり、偽閉経療法下では骨密度の低下が懸念されます。また手術療法による両側卵巣切除やチョコレート嚢胞切除によるPOF(Premature ovarian failure)によって卵巣機能が喪失していることもあります。したがって、子宮内膜症女性が治療のゴールである閉経を迎えたときに既に骨粗鬆症を発症していることも想定しなくてはなりません。また閉経は女性人生のゴールではなく、閉経以降、女性にはまだ長い人生が残されています。したがって今回は閉経後の女性医学についても触れたいと思います。

※1 Gn-RHアンタゴニスト製剤に子宮内膜症の適応(効能又は効果)はない(2021年10月時点)

1. 子宮内膜症治療中の閉経の確認と検査項目

周閉経期の子宮内膜症治療中の閉経の確認について示します。周閉経期の場合、ジエノゲスト1mg錠やLNG-IUS(子宮内黄体ホルモン放出システム)※2といった偽妊娠療法または逃げ込みを目的としたGn-RHアゴニスト療法を施行していると思われます。LNG-IUSは内分泌環境にほとんど影響せず、ジエノゲストもアンドロゲン作用のないプロゲスチンのためFSH値に大きな影響はありません。したがって両療法の場合はE2値220pg/dL以下かつFSH値80pg/dL以上を満たす場合は治療中であっても閉経と判断し、治療を中止することができます。またGn-RHアゴニストの場合は6カ月毎の中止時に月経が再開するかで判断します。閉経時の検査として望ましい検査を示します(表1)。特に骨吸収マーカーであるTRACP-5b(Tartrate-resistant Acid Phosphatase 5b)は閉経後約1年で基準値(120~420mU/dl以下)を上回るため、TRACP-5bの検査値が420mU/dL以上であればDXA法(dual-energy X-ray absorptiometry)による腰椎および大腿骨頸部の骨密度の測定を行うと良いでしょう。

※2 本邦で承認されている効能又は効果:避妊、過多月経、月経困難症(2021年10月時点)

2. 子宮内膜症女性の周閉経期における骨密度

周閉経期女性の原発性骨粗鬆症の診断はDXA法によって行うよう国内の「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン、2015年版」で推奨されています1)。骨密度に対する治療介入は骨量減少(osteopenia)、すなわちYAM(Young Adult Mean)値80%未満またはT score -1.0以下から開始します(図1)。閉経直後の子宮内膜症女性1892名に対する我々の調査では、腰椎または大腿骨に骨量減少または骨粗鬆症があり治療域にある割合は、YAM値<80%が46%、T score<-1.0が49%であり、約2人に1人が骨密度減少に対する介入を必要としていました(表2)

3. 子宮内膜症女性の周閉経期における骨密度減少に対する介入

周閉経期の骨密度減少に対する介入は図2に示す通り、エストロゲン系の骨粗鬆症治療薬を選択します。最も望ましいのはエストロゲンを用いたホルモン補充療法(HRT)であり、続いて選択的エストロゲン受容体修飾薬(SERM)です。これらは骨吸収抑制薬であるビスフォスフォネートの作用機序と異なり、骨代謝回転を正常化させる作用のみならず、椎体間や関節の軟骨減少に対する抑制効果も期待できます2)。また、骨吸収抑制薬の使用で懸念される非定型骨折や骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(ARONJ)などの副作用がありません。一方、最も考慮すべきは子宮内膜症の悪化を抑制しつつ、エストロゲンを補充するということであり、HRTをEPT(エストロゲン・プロゲスチン)によって行う場合は、子宮内膜症に対して、消退出血を避ける為にプロゲスチンの連続投与が望ましいでしょう。EPTの5年以上の連続使用は乳がんの発症リスクを1.26倍にするとWHI(Women's Health Initiative)で報告されていますので、長期使用の場合は、組織選択的エストロゲン複合薬(TSEC)も選択肢の一つとして検討の価値があります3)。TSECはエストロゲン製剤にSERMを加えて投与する方法です。SERMのうち、本邦で閉経後骨粗鬆症の適応がある製剤はラロキシフェンとバゼドキシフェンですが、特にバゼドキシフェンは骨組織に対するエストロゲンレセプターアゴニスト作用を有する一方で、子宮内膜および乳腺組織に対して選択的エストロゲンレセプターアンタゴニスト作用があることが報告されています4~7)。またバゼドキシフェン単独投与という方法もありますが、留意すべきは、エストロゲン系骨粗鬆症治療薬はビタミンDの十分な存在下でないと作用しないということです8)。本邦における25(OH)ビタミンDの正常値については表3に示します。したがって血液検査上25(OH)ビタミンDが欠乏または不足の状態であれば、ビタミンD製剤の併用が必要です。

4. 子宮内膜症を有する骨量減少に対するHRT中の経過観察

EPTまたはTSEC、SERMによるHRTを施行するにあたり、その経過観察について述べます。HRTによる治療は主に骨代謝回転の正常化のため、血液検査により短期的にこれらの方法が奏功しているかを確認します。骨代謝回転は一般的に薬剤投与から約3カ月で改善するとされ、HRT開始約3カ月目にTRACP-5bが低下傾向、すなわち骨吸収が低下していることを確認します。骨形成マーカーであるBAP(Bone Specific Alkaline Phosphatase)が並行して低下していれば、骨代謝回転が正常化していると考えてよいと思われます。また長期的効果として半年から1年毎にDXA法による骨密度を計測します。一方、近年においては閉経後に進行する子宮内膜症についても報告されつつあります。このタイプの子宮内膜症は低エストロゲン状態にあるにもかかわらず、進行してチョコレート嚢胞などを形成し、他の子宮内膜症とは分けて考慮する必要があることが指摘されています。したがって、子宮内膜症の進行についても半年ごとに超音波検査等で経過を観察することが必要です。

まとめ

子宮内膜症は閉経が治療のゴールとされてきましたが、現在この概念も修正されつつあります。一つは骨量減少がその後の健康寿命に大きく影響するため、病態の悪化を避けつつ、骨量を担保する治療が必要であること、そして二つ目は低エストロゲン状態であるにもかかわらず進行する子宮内膜症の存在です。現在後者は複数の国による共同研究により報告されたばかりです。前者においては約半数が閉経を迎えた時点で治療域にあり、その後平均10年で20%以上のYAM値の減少が想定されます。これらの女性が整形外科で骨粗鬆症と診断され、治療が開始されるのは65歳以上または腰椎・大腿骨の骨折時からであり、ビスフォスフォネートを中心とする製剤の使用が避けられません。したがって閉経直後よりHRTを施行することで、骨量減少症から早期に介入しつつ、子宮内膜症の管理を閉経後も持続することが最も望ましいと思われます。最後に筆者は「65-80運動」を提唱したいと思います。これは「65歳でYAM80%以上」を婦人科は目標に骨量の維持療法を施行し、65歳で整形外科に橋渡しするという提案です。更年期症状を緩和するためのHRTから、現在は女性の健康寿命の延伸と介護予防のための一つのステップにその目的が変化しつつあります。閉経直後から婦人科がHRTを更年期症状の改善のみならず、早期骨量維持療法として長期に施行し、女性医学として他科と連携しながら、女性の健康寿命の延伸に寄与することが私たち婦人科に求められると思います。

文献

  • 1)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会、骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版. 第1版第1刷ed. 東京: ライフサイエンス出版株式会社; 2015 p26-27
  • 2)Muscat BY et al. Low intervertebral dis height in postmenopausal women with osteoporotic vertebral fractures compared to hormone-treated and untreated postmenopausal womon and premenopauseal woman without fractures. Climateric 2007; 10(4): 314-19
  • 3)Komm BS et al. The tissue selective estrogen complex: a promising new menopausal therapy. Pharmaceuticals 2012; 5(9): 899-924
  • 4)Komm BS et al.Bazedoxifene acetate: a selective estrogen receptor modulator with improved selectivity.: Endocrinology 2005; 146(9): 3999
  • 5)Sato M et al.Raloxifene,tamoxifen,nafoxidine,or estrogen effects on reproductive and nonreproductive tissues in ovariectomized rats. FASEB J 1996; 10(8): 905
  • 6)Michael H et al. Differential effects of selective oestrogen receptor modulators (SERMs) tamoxifen, ospemifene and raloxifene on human osteoclasts in vitro. Br J Pharmacol 2007; 151(3): 384
  • 7)Qu Q et al. Selective estrogenic effects of a novel triphenylethylene compound, FC1271a,on bone,cholesterol level,and reproductive tissues in intact and ovariectomized rats.Endocrinology 2000; 141(2): 809
  • 8)Somjen D. Vitamin D modulation of the activity of estrogenic compounds in bone cells in vitro and in vivo.  Crit Rev Eukaryot Gene Expr 2007; 17(2): 115-47