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よりぬき産婦人科トピックス

2022年7月12日公開

産婦人科医はDV被害者のゲートキーパーたれ

種部 恭子先生

女性クリニック We! TOYAMA
代表

本コンテンツは、OG SCOPE Vol.8 No.1 臨床最前線(2017年6月発行)の記事を一部再編集しております。

はじめに

2016年筆者は、来日した世界医師会のSir Michael Marmot会長の講演を聞く機会に恵まれ、大変感銘を受けた。会長は、健康の社会的決定要因について述べる中で、DV(Domestic Violence)被害により死に至った女性のケースから得た教訓に触れ、「医療関係者は、健康を失った社会環境に目を向け、弱者の弁護人であるべきだ」と訴えかけたのだ。
翻ってわが国では、世界有数の長寿国であり医療に関する指標は他国に劣ることはないものの、一方で、DVなど暴力による健康被害については発見者になりえる立場にありながら医学教育にも取り入れられていない状況である。筆者のクリニックがある富山県では、支援につながりにくいDV被害者に、接点を持つ可能性が高い医療現場から手を差し伸べてほしいとの観点から、医療関係者を対象とした『DV被害者対応マニュアル』を作成した1)
本稿では、同マニュアル作成に関わったメンバーの一人として、富山県での事例を中心に、DVの現状と、筆者が実践している“産婦人科医によるDV被害者支援”について述べる。

社会に潜み見過ごされがちなDVの実態

DVとは、配偶者や恋人など親密な関係にある相手からのさまざまな暴力をいう(表1)
内閣府によると配偶者暴力相談支援センターにおける2020年のDV相談件数は12万件を超えている(図1)。国の抽出調査によると、配偶者から暴力を受けた経験がある女性は約4人に1人であることより、12万件の相談例は氷山の一角であろう。DVの身体的暴力により殺人・傷害・暴行により検挙される件数は年間約9000件に上る。
DVの暴力は、相手を怖がらせ支配するために使われるコントロールの手段である。DVが起こりやすい要因の一つが家制度であり、「女性は男性に従って尽くすべき」といったジェンダーバイアス(偏った固定的性別役割)があると支配し支配される関係性ができやすい。
筆者の住む富山県は全国的に見て離婚率が低く、47都道府県の下から2番目(人口千対で全国平均1.69に対し1.29)である2)。DV被害経験のある女性は全国においても富山県においても約30%であるが、被害経験のある女性のうち、パートナーと離婚できた女性の割合はわずか10.3%であり、41.9%は別れたかったが別れられなかったと答えており(図2)3、4、5)、暴力から逃げ離婚することができない女性は多く潜在していると考えている。

DVの加害者像と逃げられないDV被害者の心理

DV加害者には社会的地位の高い“立派な人”が多く、自分は優位であるという特権意識を持っていることが多い。しかし元来は自己肯定感が低く自信がないため、暴力を使って相手を支配しようとする。暴力をふるわせる原因は相手にあり、自分は不本意ながら「しつけ」として暴力をふるったなどと自分を正当化し、暴力を矮小化しがちである。
一方、DV被害者は、相手を怒らせたくないため逆らうことができず、自身の気持ちを言わなくなる。「暴力をふるわれるのは自分に非があるから」と自己有用感を失い、マインドコントロールされていく。DV被害に遭っていることを恥ずかしいと思い、誰にも相談もできず孤立し、心理的監禁状態におかれるため、心身の不調を訴えるようになる。
また、被害者は、生活や経済的基盤などを失うことへの抵抗感から、DVから“逃げない”のではなく“逃げられない”状況に陥っている。「逃げたら殺されるのでは」という次なる暴力への恐怖や、長期間のマインドコントロールにより、「逃げる力がない」とあきらめている。生命にかかわるほどの外傷を受けても「大したことはない、自分が悪い」と被害を自覚できなくなっていることもある。子どもがいる場合は「どんな暴力夫でも、子どもにとって父親は必要」という考えにとらわれていることが多い。

DV家庭に育った子どものトラウマ

DV家庭で育つ子どもは、日々いつ暴力が起こるか、息をひそめて生活している。子どもは親が思う以上に暴力の存在に気づいており、大好きなお母さんが暴力を受けて泣き叫ぶ声、人格を否定する暴言や怒鳴り声、物を投げたりする音などを、緊張しながら耳にしている。母親への暴力を止めようとして子どもが外傷を受けるケースもある。
子どもがDVを目撃することを“面前DV”という。面前DVは、身体的虐待やネグレクトと同様、子どもに心的外傷を与えることから、心理的虐待と位置付けられている。児童虐待対応件数は年間20万件に上り、うち心理的虐待が59.2%を占める。心理的虐待が急増しているのは、DVで警察に相談したケースにおいて面前DVがあったものが、児童相談所に情報共有され心理的虐待として対応されるためだ(図3)
DVを繰り返し目撃することは、健康・発達面に大きな影響を及ぼす(表2)
いつ暴力が起きるか不安で息を潜めているため、登校しても落ち着かない。また「自分が良い子でいなかったから父が母に暴力を振るうのだ」と考え、暴力を止めることのできない非力な自分への罪悪感から、自己尊重感が育まれない。暴力のある環境から逃げられないことで「見捨てられた」と感じ母子関係が破綻したり、母を蔑むようになったり、「男性は女性より強く優れているので、女性は卑下されて当然だ」といった誤った価値観を持ったりする。
思春期になると、暴力のある家庭から逃れる手段として、家出や若年妊娠・出産という形をとることも多い。暴力による支配を学んでいる場合は、反社会的行動や、自身もDV加害を行うことがあり、世代間で連鎖が起こりやすい。

産婦人科医がDVを疑うべき事項と対応時の留意点

女性を診る場合、表3のような身体所見や症状が見られる場合にDVを疑う必要がある6、7)
当クリニックでDVを発見したケースには、結婚後にてんかん発作を起こすようになり、発作中負った火傷について話を聞くうちに夫の暴力により発作が誘発されることが分かった例、頻尿や反復する膀胱炎様症状に対して抗コリン薬が奏効せず、安定剤が有用であったことからよく話を聞くと夫の身体的暴力と異常な性行動の強要が判明した例などがある。
DV被害女性が呈する愁訴は多様であり、複数の診療科をドクターショッピングすることも多い。どの診療科・医療機関でも明確な診断がつかず、対症療法を繰り返している慢性症状を診たら、DVを疑ってみることが大切である。
DV被害者は自分がDV被害により不調に陥っているとは気づいていないため、自分から被害を開示することはない。また、家庭内の事情を話すことに抵抗があることも多いため、「当クリニックでは患者さんに必ず伺うことにしているので」と前置きしてから話をすすめたり、一般的な話として「暴力被害を受けている女性が多い」ことを伝えるなど、開示しやすい状況を作るような工夫が必要である。
DVが開示された場合は、「よく話してくれましたね」「生き延びるために最善の手段を取ってきましたね」と本人の苦悩に共感し開示を労うことが回復への第一歩である。表4のような不用意な言葉は二次被害を生むばかりでなく、二度と相談しないでおこうと思わせてしまうことにより、被害は重症化・長期化する原因になる。

産婦人科医ならではのDV被害女性への支援

医療機関の中でも、とくに産婦人科は、
・DV被害者女性が不定愁訴で来院することが多い。
・望まない妊娠を診る機会がある。
・DV家庭の子どもの不調も診る機会がある。
・妊婦健診や再診の機会を作りながら、時間をかけて接することが可能である。
・支援者との交渉力がある。
などの強みがある。日常診療の中でDV被害者を早期に発見できるだけでなく、配偶者暴力相談支援センターなど利用できる相談機関に関する情報提供を行い、次の支援に繋げることが可能である。いわば、“ゲートキーパー”としての役割を担っているといえる。DV開示後の一般的な支援体制のフローチャートを図4に示す。

法的対応が可能なカルテ、写真記録等の作成のポイント

医療機関での対応や治療の記録は、接近禁止命令などの保護命令の申立て、損害賠償請求、離婚調停や裁判等において重要な参考資料となる。司法に耐えうる記録とするため、患者の言葉は「カッコ」でくくってそのまま記載し、時間、場所、状況など、可能な限り詳細に現病歴を記載する(図5)
外傷がある場合には、視診や理学的所見などより受傷の推定日時を記載、心身症の場合はその発症時期をできるだけ正確に記載する。画像の記録を行う場合には、本人の同意を取り、日付、場所、撮影者名を写真に明記する。写真の撮り方にも注意が必要である(図6)。写真で示すことが困難な痛みやしびれなどの症状や兆候は、スケッチなどを使い記録する。
院内では、DVの疑いのある患者情報を共有し、対応について日頃からスタッフ同士で十分に周知しておくことも必要である。

おわりに

DV被害者は、心身の症状が暴力によって起こっていることを自覚しにくい。日常的に女性を診ている産婦人科医は、被害に気付き、その女性にいつでも支援の準備があることを伝えることができる。DVに気づき、支援につながることができるまでの橋渡しの役割を、多くの産婦人科医が担ってくれることを期待している。

参考文献

  • 1)医療関係者向けDV被害者対応マニュアル.富山県.2017
    (https://www.pref.toyama.jp/documents/9394/01494238.pdf)
  • 2)厚生労働省:人口動態統計(2019)
    (https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003411861)
  • 3)National Center for Injury Prevention and Control, Division of Violence Prevention: Intimate Partner Violence: Risk and Protective Factors.2016
    (https://www.cdc.gov/violenceprevention/intimatepartnerviolence/riskprotectivefactors.html. Page last reviewed: July 20, 2016)
  • 4)内閣府:男女間における暴力に関する調査.令和2年度調査,2020
    (https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/data/pdf/2020soudan.pdf)
  • 5)富山県:2019年度男女間における暴力に関する調査,2020
    (https://www.pref.toyama.jp/documents/9560/01470286.pdf)
  • 6)Black, MC: Intimate Partner Violence and Adverse Health Consequences. American Journal of Lifestyle Medicine, 5: 428-439, 2011
  • 7)WHO: Health care for women subjected to intimate partner violence or sexual violence. A clinical handbook. 2014
    (https://apps.who.int/iris/handle/10665/136101)