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- 子宮内膜症と尿路疾患(Vol.10 No.2 臨床最前線)
2023年5月9日公開
子宮内膜症と尿路疾患
太田 郁子先生
太田郁子ウィメンズクリニック
院長
本コンテンツは、OG SCOPE Vol.10 No.2 臨床最前線(2019年12月発行)の記事を一部再編集しております。
はじめに
子宮内膜症は腹膜に生じる微小な病変が本体ですが、腹膜を5ミリ以上超えて浸潤する場合、DIE(Deep infiltrating endometriosis)と呼称します。このDIEは通常の子宮内膜症と異なり、腹膜を超えて浸潤する能力をもつ子宮内膜症で、腸管子宮内膜症、膀胱子宮内膜症、外源性子宮内膜症の原因となり得ると言われています(図1)。特に子宮両側に位置する左右の仙骨子宮靱帯を中心に発症・発展することが多く、癒着や浸潤による尿管を中心とした尿路の機能異常を起こすことがあります。今回はこの尿路と子宮内膜症について述べたいと思います。
尿路疾患と症状
子宮内膜症女性で、月経に伴い背部痛や背部叩打痛などを呈する場合は子宮内膜症による尿路狭窄により炎症性疾患を疑うことが多いと思います。むろん子宮内膜症による尿路狭窄は無機能腎を呈することもありますので、留意が必要です(図2)。一般には尿管狭窄を呈する子宮内膜症女性はMRI所見においても以前述べたQuestion mark signやHourglass-shaped or diabolo-like lesions (砂時計型腸管狭窄部)1)など子宮傍組織の癒着所見が認められ、診断の一助となります(図3)。また背部エコーにより腎盂の拡大や水腎症がないかを検査することが可能です。しかしすべての背部痛がこれら子宮内膜症の尿管狭窄に起因すると考えるのは危険です。
表1に私が経験した子宮内膜症女性の尿路症状と疾患を示します。背部痛は尿路狭窄や尿路炎症性疾患以外にも呈することがあります。特に遊走腎は背部痛を呈する疾患ですが、CT画像などの画像所見で診断することが困難です。そして稀に血尿を呈することがあり、子宮内膜症性の尿路異常と鑑別が困難です。この場合、まず痩せている女性に多い疾患であること、体をかがめると痛みが軽減・消失するなどの所見から診断すると良いと思われます。また月経時に強い背部痛があり、尿沈渣により炎症所見がない方で急性膵炎も経験しました。背部痛がある場合はアミラーゼ等の検査も検討すると良いと思われます。
また膀胱子宮内膜症の症状を月経に伴う血尿と考えてしまいがちですが、血尿は稀で、さらに月経時の尿潜血検査はほぼ無効です。膀胱子宮内膜症の主症状は月経に伴う頻尿と膀胱痛、排尿痛です。図4のように超音波検査で明らかに認める場合は血尿を呈することがありますが、ほとんどの膀胱子宮内膜症はエコー所見に乏しく、初期の診断は困難です。月経時に強い排尿痛や頻尿を呈する場合は、泌尿器科で膀胱鏡下に組織診を施行してもらうことが診断を確定するために重要です。
尿路閉塞による水腎症の診断は無症状のため、背部エコーかCT画像により診断に至ります(図5)。
最後に尿管結石症による背部痛や血尿との鑑別についてですが、子宮内膜症性の血尿や背部痛は月経に同期して反復して起こりますが、尿管結石症の場合は単回で、月経に同期せず、肉眼的血尿が数日に渡り持続します。
子宮内膜症に関連する尿路疾患の治療
尿管狭窄が予想され、反復して腎盂炎を呈する場合や、水腎症により腎盂の拡大が認められる場合は手術療法を選択します。しかし尿路狭窄の術式は高度な手術を必要とすることを念頭に置かなくてはなりません。図6に術式を示します2)。狭窄部分が3㎝以内であれば、尿管端々吻合または尿管膀胱新吻合が適応となり、さらに狭窄部分が長い場合は腸腰筋を用いた尿管膀胱新吻合および腸腰筋縫合術やBoari bladder flapが適応されます。
一方膀胱子宮内膜症は、エコー上、明らかに腫瘤形成が認められる場合は腹腔鏡下に膀胱壁切除術を適応しますが、明らかな腫瘤がなく、膀胱鏡下部分組織診において膀胱子宮内膜症と診断された場合は薬物療法が望ましいと考えます。薬物療法は閉経まで長期に渡り施行することを踏まえると、消退出血による症状の出現を避けるためにジエノゲストをはじめとするプロゲスチン単独療法が望ましいと思われます。
まとめ
以上よりダグラス窩閉鎖や外源性子宮内膜症などを伴うDIEを認めた場合は尿路閉塞を考慮し、尿路症状に留意する必要があります。さらに尿路閉塞の手術は高い技術を要するため、手術の適応を考慮する際に、尿路症状や膀胱症状を遊走腎や急性膵炎といった他疾患と鑑別することも重要です。
参考文献
- 1)Squifflet J et al. Diagnosis and Imaging of Adenomyotic Disease of the Retroperitoneal Space. Gynecol Obstet Invest 54(suppl 1): 43-51, 2002
- 2)Ota Y et al. Laparoscopic surgery with urinary tract reconstruction and bowel endometriosis resection for deep infiltrating endometriosis. Asian J Endosc Surg 11(1): 7-14, 2018
2023年5月作成
17226-1/N13 60 PI