- 医療関係者向けホーム
- 医療関連情報
- 痛風列伝
- 痛風列伝 Vol.1
痛風列伝 vol.1
精神力で痛みを克服した
哲学者カント
心頭滅却すれば痛風もまた無痛!?
「心頭滅却すれば火もまた涼し」。無念無想の境地にいたれば火さえも涼しく感じられる、すなわち、気持ちの持ち方次第でどのような苦痛をもしのげるとの意味の有名な言葉です。なんと、医療の助けを借りず、この名言さながらに、痛風の激痛を精神力で切り抜けようと試みた偉人がいました。近代哲学の祖と呼ばれる18世紀に活躍したドイツの哲学者イマヌエル・カントです。彼は晩年、痛風を発症し、たびたび発作に襲われました。
規則正しい生活から一変した不摂生で発症
実のところカントは、幼少時から病弱であったため、自らに極度な節制と規則正しい生活を課していました。その厳格な生活ぶりに関するエピソードはたくさん残されています。ところが、70歳をすぎてからは、食事も不規則になり、若いときから好きだったバターとチーズだけをむさぼるように食べるようになりました。バターやチーズは尿酸値が上がりやすい食品ですので、おそらくは、乱れた食生活と偏食から痛風を発症したのではないかと推測されます。
著名人に関することをひたすら思い出す
さて、こうして痛風による激痛を起こすようになったカントは、前述したとおり精神力で痛みをなんとかしようとしました。具体的には、歴史上の著名な人物に関することを片っぱしから思い出すなどして、痛みとは別次元のあることに神経を集中させたのです。そんな方法で本当に効果があったのかといぶかられるところですが、実際に痛みは軽減されたようで、彼は精神力で痛みを克服する方法に関する論文さえも発表しています。
確かに痛みに悩まされている最中に、別の何かに夢中になっていっとき痛みを忘れた経験を持つ方も少なからずいるでしょう。したがってカントの主張はあながち間違いではありませんが、精神力で痛風の治療までは不可能というもの。彼がローマ医学の進歩を信頼していなかったのには、思想的裏づけがあったと推察できます。しかし、もし医療に頼っていたならば、痛みと闘う回数がもっと少なくてすんでいたのではないでしょうか。
- 参考文献
- 横田 敏勝著「漱石の疼痛、カントの激痛」(講談社現代新書) 110-120 2000