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- ウンチのうんちく話 その1
参考:長谷川政美著「ウンチ学博士のうんちく」(海鳴社)
「しゃがみ式」か「座り式」か――。1880年代のパリでは、トイレを巡ってそんな論争が起こっていました。
座り式トイレのことを日本では洋式と表現するため、ヨーロッパでは古くから座り式が普及していたように思いがちですが、意外なことに、その頃のフランスでは多くの人々が日本の和式便所のようなしゃがみ式トイレを使っていたそうです。
当時、ベルギーの首都ブリュッセルの新聞には、「トイレの個室から出てきたのがフランス人であることはすぐわかる」という内容の記事が掲載されました。フランス人は、便座の上に乗ってしゃがんだ姿勢で排便するため、せっかく便座をきれいにしてもすぐに汚してしまうというのです。座り式のトイレはイギリスで発明され、ヨーロッパで普及しましたが、フランス人はしゃがみ式を好み、座り式を取り入れた最後の国の一つだったようです。
座り式トイレの波に乗り遅れたフランスでしたが、トイレの水洗化や公衆トイレの普及に伴い座り式派の勢力が増し、冒頭の一大論争に発展したのです。攻防するしゃがみ式派は、しゃがむことが腹筋や肛門の括約筋に働き便の排泄を促すメリットがあること、さらに座り式に用いる便座によって伝染病が媒介されるリスクがあることを主張しました。そのころ、梅毒が大いに流行し問題となっていたという背景がありました。このときのしゃがみ式派の主張から、座り式便座は梅毒の感染経路になるという説になったようです。
このような経緯の末、結局は座り式派に軍配が挙がったことは、周知の通りです。多くの人が感じるように、座り式に慣れてしまうと、しゃがみ式では体のバランスを取ることが難しくなってしまいます。また、一つの便器で大便と小便を共用できるように、便座が上げ下ろし式に改良されたことも、座り式トイレが普及した要因の一つだったと思われます。
我が国でも長年、しゃがみ式である和式便所が中心でしたが、座り式が急速に普及し、和式便所は衰退の一途をたどっています。
イマドキは、和式便所の使い方を知らずに、金隠しに座ってしまう子もいるようです。
参考:長谷川政美著「ウンチ学博士のうんちく」(海鳴社) 71-73 2019