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痛風・高尿酸血症診療 ESSENTIALS 高尿酸血症の病態と診断の画像

痛風・高尿酸血症の病態、疫学、診断、治療などに関する情報をまとめたコンテンツです。
先生方の痛風・高尿酸血症の診療にお役立ていただけますと幸いです。

1.高尿酸血症とその病態

高尿酸血症の定義1)

高尿酸血症は、性別、年齢を問わず、血清尿酸値が7.0mg/dLを超えるものと定義されます。

  • 高尿酸血症は、尿酸塩沈着症(痛風関節炎、腎障害、尿路結石など)の原因となる病態であると位置づけられています。
  • 尿酸は血液などの体液に難溶性で、温度やpHの低下によって溶解度が低下し、結晶が析出しやすくなります。生体の通常条件下では、尿酸の溶解度に性別や年齢層による差がなく、7.0mg/dL以下までは溶解すると考えられています。
  • このことから、高尿酸血症は、性別、年齢を問わず、血清尿酸値が7.0mg/dLを超えるものと定義されます。
  • 一方、血清尿酸値の上昇とともに、高血圧、糖尿病、慢性腎臓病(CKD)、脳・心血管病やメタボリックシンドロームなどのリスクが高まる可能性が指摘されています。特に、女性において血清尿酸値が7.0mg/dL以下であってもリスクが上昇することが知られており、尿酸塩結晶沈着以外の病態の存在が示唆されます。
高尿酸血症の定義の画像

日本痛風・尿酸核酸学会ガイドライン改訂委員会 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版 診断と治療社 2018: 72-3

高尿酸血症の疫学2)

高尿酸血症・痛風の患者数は、年々増加傾向にあると考えられています。

  • 食生活の欧米化に伴って、わが国の高尿酸血症患者数は年々増加傾向にあると考えられています。
高尿酸血症の頻度の推移の画像

冨田眞佐子, 他 痛風と核酸代謝 2006 ; 30 : 1-5

  • 痛風患者数も年々増加傾向にあると考えられ、国民生活基礎調査で推定された痛風患者数は2022年時点では推定130万人とされています。本統計が開始された1986年からの約30年間で、推定患者数は約5倍に増加しています。
国民生活基礎調査から推定された痛風患者数の画像

厚生労働省ホームページ 国民生活基礎調査 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21.htmlより作図

コロナ禍で高尿酸血症・痛風患者は増加している?

  • 一般社団法人 日本生活習慣病予防協会が2023年に全国の医師を対象として実施した高尿酸血症・痛風に関するアンケート調査では、コロナ禍で高尿酸血症の患者が「とても増えている」、「増えている」と回答した医師は35.2%という結果でした(a)3)。なお、2020年、2021年に実施したアンケートでの同様の質問では、それぞれ33.6%、48.6%でした。
  • 「とても増えている」または「増えている」と回答した医師に、どのような患者が増えているかを尋ねたところ、「尿酸降下薬などの服用を自己判断で中止し発作が再発した患者」は45.6%、「コロナ禍以降に運動機会が減少し急激に尿酸値が上昇した患者」は35.2%の医師に選択されました(b)
  • 尿酸コントロール状態が、コロナ禍発生直後からどのように変化したかを問うと、67.9%の医師は「悪化していない」と答えましたが、32.1%は「非常に悪化している」または「悪化傾向である」という回答でした(c)
  • この報告では、人々の生活はコロナ禍以前の状態に近づいてきましたが、生活習慣病リスクという点ではコロナ禍の影響がまだ続いていることが今回の調査から見てとれるとの見解が述べられています。
コロナ禍で高尿酸血症・痛風患者は増加している?の画像

一般社団法人 日本生活習慣病予防協会 ホームページ https://seikatsusyukanbyo.com/calendar/2023/010721.php

尿酸の産生と排泄3)

高尿酸血症は、尿酸の産生と排泄のバランスが崩れて、尿酸プールが増大したときに起こります。

  • 尿酸はヒトにおけるプリン体の最終代謝産物です。尿酸は「悪玉」としてとらえられがちですが、抗酸化作用という「善玉」としての作用も有しています。
  • 体内の尿酸量(尿酸プール)とは、成人男性で約1,200mg、成人女性は約600mgとされています。
  • 食事由来のプリン体摂取、肝臓におけるプリン体の生合成や細胞の崩壊などにより、1日あたり約700mgの尿酸が尿酸プールに流入します。その一方で、ほぼ同量の尿酸が体外に排泄されることで尿酸プールは一定量に維持されています。
  • 尿酸の産生量が増加あるいは尿酸の排泄が低下することで、尿酸プールが増加し、高尿酸血症をきたします。
  • 尿酸の約2/3は腎臓から、約1/3は腸管から排泄されます。
成人男性の尿酸プールと産生・排泄のバランスの画像

日本痛風・尿酸核酸学会ガイドライン改訂委員会高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版診断と治療社2018 : 95-8より作図

尿酸トランスポーター

尿酸の排泄に関わる代表的なトランスポーターには、尿酸の再吸収を担うURAT1やGLUT9、分泌を担うABCG2があります。

  • 尿酸の排泄には様々なトランスポーターが関与しています。
  • 尿酸の再吸収には、主に腎臓の近位尿細管細胞の尿細管管腔側に存在する尿酸トランスポーター1(URAT1)や血管側膜に存在するグルコーストランスポーター9(GLUT9)が関与しています5)。一方、尿酸の分泌は、主に血管側膜に存在する有機アニオントランスポーター1(OAT1)、有機アニオントランスポーター3(OAT3)や主に尿細管管腔側に存在するATP結合カセットトランスポーターG2(ABCG2)によって行われます。
  • また、ABCG2は尿酸の排泄の約1/3を担う腸管にも存在し、腸管(腎外)における分泌に関与することも知られています4)
代表的な尿酸トランスポーターの画像

監修:国立病院機構 米子医療センター 病院長 久留 一郎 先生

高尿酸血症の病型分類4)

高尿酸血症は、尿酸排泄低下型、腎負荷型(尿酸産生過剰型と腎外排泄低下型)、混合型に大別されます。

  • 『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第2版』までは、高尿酸血症は「尿酸排泄低下型」「尿酸産生過剰型」「混合型」に分類されてきました。
  • 『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版』では、この病型分類の考え方に変更がありました。近年、尿酸産生過剰型と考えられてきた病型の中に、尿酸排泄を担うトランスポーターABCG2の機能低下により腸管からの排泄が低下したことで、見かけ上、尿中の尿酸排泄が増加した病型も含まれていることが報告されました。
  • そこで、腸管からの尿酸排泄が低下した高尿酸血症は、「腎外排泄低下型」として病型分類に取り入れられました。
  • 尿中尿酸排泄量の増加を認める高尿酸血症をすべて尿酸産生過剰型と呼ぶことは誤解を招きやすいため、真の尿酸産生過剰型と腎外排泄低下型を合わせて「腎負荷型」という呼称が提唱されています。
高尿酸血症の病型分類の画像

日本痛風・尿酸核酸学会ガイドライン改訂委員会 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版 診断と治療社 2018: 95-8より改変

  • 高尿酸血症の患者のうち、尿酸排泄低下型は約6割、腎負荷型(以前の尿酸産生過剰型)は約1割、混合型は約3割を占めると報告されています。つまり、尿酸排泄低下型の特徴を持った高尿酸血症が約9割(=尿酸排泄低下型約6割+混合型約3割)を占めることになります。
高尿酸血症の各病型の割合の画像

日本痛風・尿酸核酸学会ガイドライン改訂委員会 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版 診断と治療社 2018: 95-8より作図

日本人はコーカソイドやアフリカン・アメリカンに比べて
ABCG2の推定機能低下の頻度が高い可能性?

  • 遺伝子多型調査の結果、ABCG2の推定機能が3/4以下であった頻度は、コーカソイドやアフリカン・アメリカンでは約2割であったのに対し、日本人では約5割でした6)
ABCG2の推定機能の人種差の画像

【対象・方法】

日本多施設共同コホート研究(J-MICC Study)に登録された日本人の全末梢血球から抽出したDNAサンプル(n=500)と、Coriell 細胞レポジトリ由来のコーカソイド及びアフリカン・アメリカンのDNAサンプル(それぞれn=200、100)を用いてABCG2の遺伝子多型Q126X及びQ141Kの有無をTaqMan法でジェノタイピングを行い評価した。Q126XはABCG2の機能を完全に損失し、Q141KはABCG2の機能を半損することから、Q126XとQ141Kの組み合わせからABCG2の機能を推定し、その頻度の人種差を評価した。

Sakiyama M, et al. Drug Metab Pharmacokinet 2014;29:490-2より作図

文献

1)日本痛風・尿酸核酸学会ガイドライン改訂委員会 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版 診断と治療社 2018: 72-3

2)日本痛風・尿酸核酸学会ガイドライン改訂委員会 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版 診断と治療社 2018 : 18-23

3)一般社団法人日本生活習慣病予防協会ホームページ
https://seikatsusyukanbyo.com/calendar/2023/010721.php

4)日本痛風・尿酸核酸学会ガイドライン改訂委員会 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版 診断と治療社 2018 : 95-8

5)寺井千尋 最新醫學 別冊 診断と治療のABC 高尿酸血症・痛風 2015 ; 105 : 7-11

6)Sakiyama M, et al. Drug Metab Pharmacokinet 2014;29:490-2