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痛風・高尿酸血症診療 ESSENTIALS 高尿酸血症の病態と診断の画像

痛風・高尿酸血症の病態、疫学、診断、治療などに関する情報をまとめたコンテンツです。
先生方の痛風・高尿酸血症の診療にお役立ていただけますと幸いです。

3.高尿酸血症のリスク

高尿酸血症のリスク1)

高尿酸血症は、痛風関節炎、腎障害などの尿酸塩沈着症の原因となります。また、血清尿酸値高値は、さまざまな生活習慣病の病態における予測因子・危険因子となる可能性が指摘されています。

  • 高尿酸血症が続くと、関節や腎尿路系に尿酸塩結晶が析出し、痛風関節炎や腎障害、尿路結石などの原因となります。
  • それだけでなく、血清尿酸値高値と、高血圧、糖尿病、慢性腎臓病、脳・心血管病やメタボリックシンドロームとの関連が注目され、これらの病態の予測因子・危険因子となる可能性も指摘されています。
  • 生活習慣の乱れが肥満からインスリン抵抗性、生活習慣病へと繋がり、最終的には臓器障害に至るという、いわゆる「メタボリックドミノ」の概念が知られています2)。この中で高尿酸血症は、糖尿病や高血圧、脂質異常症と近接してメタボリックドミノの比較的下流に位置づけられています。一方で、高尿酸血症がメタボリックドミノの比較的上流に位置し、新たな起点となってメタボリックドミノを再形成している可能性も指摘されています。
高尿酸血症を中心に見たメタボリックドミノの画像

久留一郎:診断と治療 2022;110:813-8

伊藤裕:日本臨牀 2003;61:1837-43より改変

痛風3)

痛風は尿酸塩結晶の沈着によるものであり、高尿酸血症が痛風発作の必須条件です。

  • 痛風は、析出した尿酸塩結晶が関節内に沈着して急性関節炎(痛風発作)をすでに生じた状態です。
  • 高尿酸血症は痛風発作の必須条件であり、尿酸値が高いほど痛風のリスクが上昇することが知られています。
  • 痛風発作の要因には遺伝要因環境要因があります。遺伝要因は主に尿酸の輸送に関わるトランスポーター遺伝子(ABCG2やGLUT9など)変異であり、環境要因はプリン体の摂取、肉類や内臓類の摂取、飲酒、果糖(フルクトース)の摂取、激しい筋肉運動、ストレス、肥満などがあります。
  • 初発の痛風発作の約70%は母趾MTP関節で、90%は足関節より末梢部ともされます4)。アキレス腱にも尿酸塩が沈着し、炎症を生じることがあります。
痛風症状の好発部位の画像

寺井千尋 最新醫學 別冊 診断と治療のABC 高尿酸血症・痛風 2015 ; 105 : 7-11 より改変

痛風患者における高尿酸血症の病型分類

痛風患者を対象に高尿酸血症の病型分類を行った報告では、76.8%が尿酸排泄低下型でした5)

男性痛風患者358例における高尿酸血症の病型分類の画像

大山博司ほか:痛風と尿酸・核酸2020 ; 44 : 159-66より作図

腎障害

高尿酸血症は腎障害の発症や進展に関連していることが示唆されています。

  • 尿酸の約70%は腎臓から排泄されるため、尿酸排泄が低下する慢性腎臓病(CKD)では高尿酸血症が認められる傾向にあります6)
  • 高尿酸血症は腎障害の発症や進展に関連していることが示唆されています7)

血清尿酸値とCKD発症リスクの関係 ー久山町研究よりー

久山町研究では血清尿酸値が高値になるに従い、CKDや腎機能障害の発症リスクが高まる可能性が示唆されています8)

血清尿酸値別 CKD発症の多変量調整済みオッズ比の画像

Takae K, et al. Circ J 2016 ; 80 : 1857-62より作図

  • 尿酸塩結晶の沈着や尿路結石によって生じる腎障害は、痛風腎といいます。それだけでなく、高尿酸血症が尿酸塩結晶沈着を介さずに、尿酸の直接作用によって腎障害をもたらすと考えられています。その機序としては、酸化促進作用、内皮機能障害、レニン・アンジオテンシン系の活性化、糸球体前の血管障害、腎尿細管細胞の上皮間葉転換などが推察されています7)

尿路結石9)

高尿酸血症・痛風は、尿酸結石やシュウ酸カルシウム結石の形成を促進すると考えられています。

  • 尿酸結石の危険因子は、右の通りです。
  • 高尿酸血症・痛風は、尿中尿酸排泄の亢進を介して尿酸結石の形成を強く促進します。
  • 高尿酸血症・痛風は、尿酸結石だけではなく、尿路結石で最も頻度が高いシュウ酸カルシウム結石の形成を促進すると考えられています。
  • 尿酸排泄促進薬は、尿中尿酸排泄量を増加させることにより尿酸結石の形成を促進することが知られています。
尿酸結石の危険因子の画像

日本痛風・尿酸核酸学会ガイドライン改訂委員会
高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン
第3版 診断と治療社 2018: 81-3より作表

メタボリックシンドローム10)

高尿酸血症とメタボリックシンドロームとの関連の背景にはインスリン抵抗性の存在が挙げられています。

  • 高尿酸血症はメタボリックシンドロームの診断基準には含まれていませんが、血清尿酸値が高いほどメタボリックシンドロームの頻度は高く、逆にメタボリックシンドロームの因子数が多いほど血清尿酸値は高いとされます。高尿酸血症・痛風患者ではメタボリックシンドロームを高頻度に合併し、血清尿酸値とメタボリックシンドロームの構成要素である内臓肥満、高血圧、高中性脂肪血症、インスリン抵抗性の間にも関連があることが知られています10)
  • メタボリックシンドロームの背景にあるインスリン抵抗性は高インスリン血症を招きます。そして、間接的に、近位尿細管にあるURAT1というトランスポーターを介して尿酸の再吸収を亢進させると考えられています。その結果、血中尿酸が増加し、高尿酸血症の病態をきたす可能性があると考えられています11)
インスリン抵抗性と尿酸再吸収亢進の関係の画像

監修:国立病院機構 米子医療センター 病院長 久留 一郎 先生

インスリン抵抗性と尿酸クリアランスの関係(前向き観察研究、海外データ)

インスリン抵抗性の指標であるHOMA(homeostasis model assessment)の増加に従い、尿酸クリアランスが低下する可能性が示唆されました12)

高血圧の有無別 HOMAと尿酸クリアランスの関係の画像

Perez-Ruiz F, et al. Rheumatol Int 2015;35:1519-24

高血圧、脳・心血管病13)

血清尿酸値高値は高血圧を発症しやすいとされています。ただし、血清尿酸値が高血圧や脳・心血管病のリスクと関連するか否かを検討した観察研究では、多くの研究限界や未解決点が指摘されているため、結果の解釈は注意が必要です。

  • 高尿酸血症に高血圧は合併しやすいことが知られており、その背景の1つにインスリン抵抗性の存在が挙げられています13)

高尿酸血症合併高血圧患者における病型分類

国内の高尿酸血症合併高血圧患者を対象に、高尿酸血症の病型分類を行った報告では、高尿酸血症合併高血圧患者の91.9%が尿酸排泄低下型でした14)

高尿酸血症合併高血圧患者における病型分類の画像

大田祐子ほか 痛風と核酸代謝 2011;35:169-74より算出し作図

  • 血清尿酸値高値は、冠動脈疾患の罹患率、死亡率増加、心不全の発症増加、心不全患者における心不全増悪および全死亡率の増加などとの関連が報告されています。一方、血清尿酸値高値が脳卒中の発症や予後に及ぼす影響については、明らかになっていません。
  • 血清尿酸値が高血圧や脳・心血管病のリスクと関連するか否かを検討した観察研究では、多くの研究限界や未解決点が指摘されているため、結果の解釈は注意が必要です。

冠動脈にも尿酸塩結晶の沈着?

  • 近年、痛風患者の冠動脈や大動脈の血管壁に尿酸塩結晶が沈着することが報告されており15,16)、脳・心血管イベントとの関連が注目されています。
痛風患者の異なる血管領域におけるDECTによる尿酸塩結晶沈着像(in vivo)の画像

Barazani SH, et al. World J Radiol 2020; 12: 184-94

  • 関節に蓄積した尿酸塩結晶が原因となって痛風関節炎を引き起こしますが、血管への尿酸塩結晶の沈着は炎症反応を誘導し動脈硬化の一因になる可能性も考えられており17)、今後の研究が俟たれます。

総死亡(含悪性腫瘍)18)

血清尿酸値高値と総死亡や悪性腫瘍との関連については多くの報告がありますが、結果は報告によって異なっており、さらなる研究が必要であることが示唆されます。

  • 血清尿酸値高値と死亡との関連については、これまで多くの報告がなされていますが、関連を認めるとする報告と、認めないとする報告とがあります。男女別に検討した報告では、男性よりも女性で関連を示すとする傾向があります。
  • 尿酸の持つ抗酸化作用から、血清尿酸値高値が悪性腫瘍に抑制的に働く可能性について注目され、これまでにいくつかの報告がなされています。血清尿酸値高値が悪性腫瘍の発症リスク増加に関連していたという報告がある一方、肺がんなどの発症リスク低下に関連していたとの報告があります。臓器によっては尿酸の抗酸化活性が悪性腫瘍に抑制的に働く可能性も考えられますが、さらなる研究が必要といえます。

文献

1)日本痛風・尿酸核酸学会ガイドライン改訂委員会 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版 診断と治療社 2018 : 72-3

2)久留一郎:診断と治療 2022;110:813-8

3)日本痛風・尿酸核酸学会ガイドライン改訂委員会 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版 診断と治療社 2018 : 74-7

4)寺井千尋 最新醫學 別冊 診断と治療のABC 高尿酸血症・痛風 2015 ; 105 : 7-11

5)大山博司ほか:痛風と尿酸・核酸2020 ; 44 : 159-66

6)日本痛風・尿酸核酸学会ガイドライン改訂委員会 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版 診断と治療社 2018 : 78-80

7)大野岩男 最新醫學 別冊 診断と治療のABC 高尿酸血症・痛風 2015 ; 105 : 74-81

8)Takae K, et al Circ J 2016 ; 80 : 1857-62

9)日本痛風・尿酸核酸学会ガイドライン改訂委員会 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版 診断と治療社 2018 : 81-3

10)日本痛風・尿酸核酸学会ガイドライン改訂委員会 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版 診断と治療社 2018 : 84-5

11)Kakutani-Hatayama M, et al. Am J Lifestyle Med 2017;11:321-9

12)Perez-Ruiz F, et al. Rheumatol Int 2015;35:1519-24

13)日本痛風・尿酸核酸学会ガイドライン改訂委員会 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版 診断と治療社 2018 : 86-8

14)大田祐子ほか 痛風と核酸代謝 2011;35:169-74

15)Barazani SH, et al. World J Radiol 2020; 12: 184-94

16)Klauser AS, et al. JAMA Cardiol 2019; 4: 1019-28

17)Nidorf SM, et al. J Clin Lipidol 2020; 14: 619-30

18)日本痛風・尿酸核酸学会ガイドライン改訂委員会 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版 診断と治療社 2018 : 89-91