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- クリニック訪問記Vol.7 木村こころのクリニック
2024年11月19日公開
兵庫県加古川市にある木村こころのクリニックは、心療内科・精神科を標榜するクリニックとして2020年10月に開業しました。院長の木村省吾先生は、地域の精神科専門病院で積んだ10年以上の診療経験を活かし、疾患・年齢を問わず幅広い患者さんを受け入れ、地域の人々のこころの健康を支えています。今回、開院の背景をはじめ、クリニックの特徴やこだわり、精神科薬物治療の考え方、今後の展望などについて、木村先生にお話を伺いました。
施設紹介
精神科の専門病院で培った経験を活かして、
地域に根差したクリニックを開院
木村 省吾 先生
(木村こころのクリニック 院長)
私は大阪医科大学(現:大阪医科薬科大学)を卒業後、精神科を含むさまざまな診療科で2年間の初期研修を受けました。当初は精神科医になろうとは全く考えていなかったのですが、「精神」という目に見えない部分、つまり客観的な指標が乏しい中で診療を行うことにやりがいを感じ、精神科医を志すことを決めました。
そこで、私の地元である加古川市の精神科単科病院「東加古川病院」で後期研修を受け、そこから約10年間、同院で診療にあたりました。東加古川病院では入院患者さんの診察にあたる機会が多く、一人の患者さんを継続して診察することができました。
このことは自らの診療スキルの向上につながったと思います。このまま勤務医としてスキルを磨いていこうと考えていたのですが、偶然、現在当院が入居しているテナントビルを見つけたことで気持ちが変わりました。JR加古川駅から徒歩3分なので患者さんが通院しやすい点や、東加古川病院からも近くて連携を取りやすい点、耐震構造がしっかりしている点などが決め手となり、医療を通じて故郷に恩返しがしたいというかねてからの思いも重なり、2020年10月に開業しました。
「こころ」の「かかりつけ医」をコンセプトに、
特殊な疾患以外は基本的に何でも受け入れる
当院のコンセプトは、地域の方々の「こころ」の「かかりつけ医」として、精神疾患全般を年齢問わず幅広く診療することです。摂食障害や人格障害、性同一性障害、重度の薬物中毒といった特別な治療プログラムを要する疾患は他施設に紹介していますが、それ以外の精神疾患は基本的に何でも診察しています。
患者さんは小児から高齢者まで、幅広い年代の方々が受診しています。特に小児や学生の発達障害患者さんが多いのが、当院の特徴ではないかと思います。自閉症や注意欠如・多動性障害(ADHD)、学習障害の潜在患者さんは非常に多くて治療ニーズが高いのですが、これらの疾患を専門的に診療できる施設は限られるため、遠方からも発達障害の患者さんが数多く当院を受診しています。その他、気分障害から不安症、統合失調症、認知症といったさまざまな精神疾患の患者さんが、年代を問わずいらっしゃいます。
看護師・臨床心理士・精神保健福祉士が常時在籍
私が開業にあたって重視したのはカウンセリングでした。これは、クリニックを受診する患者さんは比較的軽症で、悩みを聞いて欲しい方が多いであろうと考えたためです。臨床心理士が常駐するカウンセリングルームを作ったところ、予想以上にカウンセリングのニーズが高く、臨床心理士を増員したりカウンセリングルームを拡張したりしました。現在当院には10名の臨床心理士が在籍し、全ての診療時間・曜日で臨床心理士によるカウンセリングや各種心理検査が可能となっています。
臨床心理士の他、精神保健福祉士も2名常勤しており、社会福祉サービスの相談など、常に迅速に対応できる体制を整えています。こういった取り組みは、患者満足度の向上につながるものと考えています。
患者さんにとって居心地よく気軽に受診しやすいクリニックづくり
これまで精神科クリニックを開業するときは、患者さんが受診しやすいように道路に面した1階ではなく、2階以上の空中階を選ぶのが定番だったと思います。しかし最近は、精神科に対するスティグマは解消されつつあると私は考え、アクセスのしやすさを優先してあえてビルの1階に開業しました。クリニック前の歩道は幅が広く、近隣にバリアフリー用の横断歩道も設備されているため、高齢者の方も安心して来院いただけます。
院内は、患者さんがリラックスして待ち時間を過ごせるよう、ホテルライクなインテリアを取り入れました。壁には掲示物を貼らず、モニターを通じて情報提供しています。また、待合室にはスマートフォンの充電などが自由にできるようにコンセントを設置しました。これにより患者さんは椅子の奥の方から座ってくれるので、後から来た患者さんが椅子に座りやすくなるというメリットがあります。
さらに、患者さんが安心して受診し続けられるように、診察時には「いつでも気軽に来てください」と声かけし、何か困ったことがあればすぐに連絡していただくようにしています。患者さんからの電話はできるだけ私が対応するようにしていますし、診察中で電話に出られない場合でも、医学的な内容でスタッフでは対応しきれないときは遠慮なく聞きに来てもらっています。
クリニック外観。
ビルの1階にあり、患者さんがアクセスしやすい。
待合室。壁に掲示物を貼らず、
情報提供は全てモニターを通じて行う。
スタッフの安全確保のための設計とトラブル防止のための設備を導入
クリニックの設計や設備には、スタッフの安全を守るための工夫を施しています。たとえば患者さんとのトラブルや火災が生じたときの避難ルートを確保するため、全ての部屋が扉でつながっています。
防犯カメラは全ての部屋と受付に設置しています。受付の防犯カメラは、たとえば会計の際に患者さんに保険証をお返ししたにもかかわらず、「返されていない」と訴えられた場合などのトラブルの対策になります。会計時の精算はセルフレジを導入して、金銭の間違いがないようにしているだけでなく、その手元にも防犯カメラを設置しています。このように防犯カメラによるトラブル防止を徹底しています。
また、当院ではWEBでの診察予約を行っておらず、全て電話で予約をとっていただいています。これは、電話のやり取りで患者さんの人となりがある程度分かるので、もし高圧的な態度をとったり無理な要求をしたりするような患者さんは、受診をお断りしています。こうした対策は、スタッフの安全を確保して安心して働いてもらうためにも大切ではないかと考えています。
診察室。避難ルート確保のため、
全ての部屋が扉でつながっている。
受付。金銭の間違いによるトラブル防止と
スタッフの作業軽減のためセルフレジを導入。
スタッフへのきめ細やかな気配りでモチベーションを向上
スタッフとの会話は年齢を問わず全て敬語を使うようにしたり、スタッフの体調に気を配ったり、特別なことではないかもしれませんが、スタッフが離職せずに長い間気持ちよく働き続けることができるような、ちょっとした気配りを欠かさないようにしています。そのおかげかは分かりませんが、たとえば臨床心理士は自主的に集まって勉強会を行うなど、スタッフがモチベーションを高くもって仕事に取り組んでくれています。これは大変嬉しいことだと感じています。
最近はスタッフが増えて私だけではマネジメントできなくなってきたため、事務長に任せることが多くなってきました。私がマンツーマンで伝えるとスタッフが緊張してしまうような場面では、事務長にも同席してもらい、緩衝材としての役割を果たしてもらうこともあります。
地域の精神科病院との綿密な連携―精神保健福祉士が活躍―
私が勤務していた東加古川病院や、明石市の「明石こころのホスピタル」とは綿密な連携をとっています。摂食障害や人格障害、重度の薬物中毒といった、当院では対応しきれない疾患の患者さんや、入院が必要なほど重度な患者さんが当院を受診された場合は、主にどちらかの病院に紹介しています。精神保健福祉士がこれらの病院とのスムーズな連携のために対応してくれるので、私の負担軽減にもつながっています。
薬物治療と生活指導の両輪で精神疾患治療にあたる
私が薬物治療を行う際に意識しているのは、薬剤の種類は必要最小限とし、一方で投与量は薬剤の電子添文に準拠しつつ、安全性を見極めながら十分量を投与することです。このモットーを実践するにあたっては、東加古川病院で長年にわたって数多くの入院患者さんを診療する中で、患者さんの重症度や再燃・再発の程度などに応じて、薬剤の投与量で有効性と安全性のバランスをとることの経験知を得られたことが大きいと思います。また精神疾患において、薬物治療の「やめ時」の判断が難しいと思います。たとえば不眠症の患者さんの場合、精神的に睡眠薬に頼ってしまってなかなか治療を終えられないことがあります。そのようなときは、私の方から「この薬を飲み終えたら、一度治療を終えてみましょう。もしまた具合が悪くなったら、いつでも受診してください」とお伝えするようにしています。
治療にあたっては生活指導も重要と考えています。そこで問診の際に、患者さんに睡眠時間や起床時間、就寝時間、仕事の内容や時間、食事をとる時間などを伺い、一日の生活リズムを円グラフに描くようにしています。これにより患者さんのライフスタイルが一目瞭然となるので、円グラフを患者さんと一緒に見ながら、どこを改善すれば睡眠が改善する、あるいは仕事に集中できるようになる、といった指導を行います。
今後
の
展望
スタッフと機能を充実させ、
多くの方の悩みに寄り添えるクリニックを目指す
全国的に精神科のニーズが高まっている状況下、当院でも初診患者さんの受け入れが難しくなりつつあります。
少しでも地域の精神疾患患者さんの悩みを解決できるようにするため、まずは医師の増員に取り組みたいと思います。また、当院には臨床心理士が多数在籍していますが、それでも予約は2~3ヵ月先まで埋まってしまっている状況なので、カウンセリングルームの機能をより充実させていきたいと思います。
こうした取り組みを通じ、一人でも多くの方の悩みに寄り添えるクリニックを目指していきたいと考えています。