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- クリニック訪問記 vol.6 あかりクリニック
2024年06月11日公開
沖縄県那覇市にあるあかりクリニックは、「那覇新都心」と呼ばれる比較的新しい地域に位置する、心療内科・精神科を標榜するメンタル、ストレスケアクリニックです。2016年の開業以来、地域医療への貢献と患者さんのこころの健康を支えるパートナーとなることを目指し、小学生から高齢者まで幅広い年齢層の患者さんの診療に取り組んでいます。また、沖縄県の精神科医療機関として初めてrTMS療法(反復経頭蓋磁気刺激療法)を導入するなど、精神科医療の地域格差の是正を目指した取り組みもしています。今回は、あかりクリニックの院長である中村明文先生に、クリニックの特徴やご専門の精神科薬物療法に対する考え方、地域医療への貢献などについてお話を伺いました。
約18年間の大学院・大学病院勤務を通じて、
数多くの診療経験を蓄積
中村明文先生
(あかりクリニック 院長)
私は琉球大学医学部を卒業してから開業までの約18年間、大学院・大学病院で研究と臨床、後進の指導などにあたってきました。その理由は、2年間の研修を終えてそのまま市中病院等へ勤務するにはまだまだ実臨床経験が不十分であり、大学院・大学病院に残って多くの患者さんを診る経験を積む必要があると考えたためです。
大学病院では、児童思春期から老年期まで幅広い年齢層の患者さんを診療しました。特に、妊娠中の患者さんや入院を要する重症患者さんといった特殊な背景を有するケースの診療経験も積むことができたのは、大きな財産といえます。
自分のペースで仕事をすることを目指して開業
こうして長年にわたって大学院・大学病院に勤務していましたが、「そろそろ自分のペースで仕事がしたい」と考え、開業することを決意しました。開業の地として沖縄県を選んだのは、精神科・身体科を問わず、多くの先生方とのつながりや信頼関係が既に構築できていたためです。患者さんをトータルでサポートするためには近隣の先生方とのつながり・信頼関係が非常に重要なのですが、他の地域で開業するとそうした関係を一から築かなくてはなりません。そうした事態は避けたかったのです。
自らの目指す精神科医療をより多くの患者さんに提供するため、
人口の多い「那覇新都心」を選択
沖縄県のどの地域に開業するかを考えたとき、私が目指す精神科医療をより多くの患者さんに提供するためには、なるべく人口の多い地域がよいと思いました。精神科のない地域に開業することも考えたのですが、それはすなわち比較的人口が少ないエリアともいえます。そこで選んだのが、既に精神科の医療機関が多くある那覇市、なかでも那覇市北端の「那覇新都心」と呼ばれるエリアでした。
「那覇新都心」は、以前は駐留米軍の住宅地でしたが、返還されて以降は新しい街として開発が進められました。今ではビジネスエリアを中心にして住宅地が広がっており、ビジネスエリアに勤務する人とその家族が大勢住んでいます。大都市から転勤してきた住民も多く、そういった方々は医療に対する意識が高い印象です。隣接する市町村からもアクセスしやすく、小学生から高齢者まで幅広い年齢層の患者さんが受診します。那覇空港からもさほど離れていないので、なかには離島や沖縄県外から飛行機を使って受診される患者さんもいます。
家族的な愛情での支援を実現するため、
四つの基本方針を掲げて診療に取り組む
「当院と関わる人の人生が豊かになるように家族的な愛情で支援したい。」これが当院の理念です。この理念を実現するため、①長期的な視野に立ち、心のこもった医療を提供する、②安全で信頼される医療を行い、地域に貢献する、③大学病院や専門病院などの医療機関と良好な連携を行う、④非営利で公益性の高い医療や研究調査にも積極的に協力する、の四つを基本方針として日々の診療にあたっています。
もちろん、患者さんに常に最新の医療を提供するため、私自身の知識のアップデートも欠かさず行っています。
医師が二つの診察室を行き来することで、時間のロスを軽減
当院はメディカルビル内に開業しています。このメディカルビルには内科や老人ホームもあり、患者さんは人目を気にせずに来院できるため、精神科を受診することに対する抵抗感は比較的軽減されていると思います。また土曜日も診療することで、患者さんの学業や就労に支障が生じにくいような配慮をしています。
待合室はリラックスして診察をお待ちいただけるよう、ゆったりした広い空間にしました。診察室は二つ設けており、片方の診察室で医師が診察している間に、もう片方の診察室で次の患者さんにお待ちいただきます。そして診察が終わったら、医師が診察室を移動して次の患者さんの診察を始めます。一つの診察室で診察すると、患者さんが入れ替わる時間のロスが生じるのですが、このような診察スタイルにすることで時間短縮を図ることができています。
クリニック外観。
メディカルビル内にあるため、人目を気にせず受診できる。
二つある診察室の一つ。
二つの診察室を医師が行き来して診察する。
薬物療法は回復しやすくするために上手に利用するもの
大学院・大学病院勤務当時、私は薬物療法の効果や副作用に関する臨床評価を行いながら、薬物血中濃度及び関連する代謝酵素の遺伝子多型、薬力学的作用に関連する遺伝子多型等について研究していました。
こうした背景から、私の専門は精神科薬物療法なのですが、精神疾患の治療が全て薬物療法で解決するとは考えておらず、どちらかというと「薬物療法を上手に利用して回復しやすくする」という考え方です。精神疾患を治療するにあたっては、生活習慣や物事の捉え方を変える、環境を調節するといった非薬物療法が重要であることは言うまでもありません。しかし、こうした非薬物療法が効果的でない患者さんもいらっしゃり、その場合は薬物療法の力を借りることで回復しやすくなることが期待できます。また、気分障害圏の疾患は自然回復する可能性があるものの、その経過が数年に及ぶおそれもあります。そこで回復のスピードを上げたり、再発しづらくしたりするために薬物療法を行うことは、患者さんのためだけでなく社会的損失を軽減するためにも重要だと考えています。このように、患者さん一人ひとりが適した治療を受けられるよう、常に治療効果を評価して見直すようにしています。
なお当院では血液検査機器を設置し、必要に応じて数分以内に血液検査結果が得られるようにしています。これは、たとえば糖尿病を併存する患者さんや、アルコール依存症などで肝機能低下が懸念される患者さんでは、禁忌であったり用量調節が必要であったりする薬剤があるためです。
沖縄県の精神科医療機関として初めて、rTMS療法を導入
私はかねてから、ニューロモデレーション治療の一つであるrTMS療法に注目していました。rTMS療法は2019年に保険適用となりましたが、適用患者の制限や導入するための施設要件が厳しい等の背景から、保険診療でrTMS療法を行っているのは大規模病院のみであるのが現状です。その結果、精神科医療の地域格差が生じてしまうことを、私は憂慮しました。そこでまず、保険診療でrTMS療法を実施するレベルの知識と技術は最低限身に付けるべきだと考え、私と当院の看護師が日本精神神経学会によるrTMS講習会を受講し、機器メーカーによる実技指導も受けました。
そして2022年、沖縄県の精神科医療機関では初となるrTMS療法を自由診療で開始しました。rTMS療法は、日本精神神経学会が2020年に発表した「rTMSの適正使用について【注意喚起】」に従い、適正かつエビデンスに基づいて実施しています。コストは大都市で行っているrTMS療法の自由診療と比べてもリーズナブルに抑えているため、大阪や福岡から来院される患者さんもいます。
rTMS装置。沖縄県の精神科医療機関では初めて導入した。
評価尺度や睡眠日誌等を活用して早期回復をサポート
患者さんの早期回復をサポートするために、工夫している点がいくつかあります。まず、診察のたびに評価尺度を用いて患者さんの症状を評価し、その結果に基づいて改善している点等を患者さんにお伝えしています。それにより、患者さんの治療意欲とアドヒアランスの維持・向上が期待できます。また、生活リズムを改善するために睡眠日誌を活用しています。睡眠日誌を付けてもらうことで、日常生活へのアドバイスをより具体的に行うことができます。そして診療の際の面談では、患者さんの良い面を見出し、その強みを活かせるように患者さんを尊重した言葉を返すようにしたり、思考の柔軟性を上げられるような助言を行ったりしています。
スタッフの知識のアップデート・共有化と、
ワークライフバランスのための取り組み
当院にはスタッフとして看護師2名、事務員2名が勤務しています。看護師にはrTMS療法や認知症に関するオンライン講習会に参加してもらったり、薬剤に関する勉強会等には当院のスタッフだけでなく隣接する薬局のスタッフにも参加してもらったりと、知識のアップデートと共有化は欠かさず行っています。一方でスタッフのワークライフバランスを保つために、休暇が取りやすいように配慮したり、自動受付・自動精算機を導入して事務員の負担軽減に努めたりといった取り組みも行っています。
地域の医師会の会合で、顔の見える関係を構築
地域の医師会ではしばしば小規模な会合が開かれており、私は積極的に参加するようにしています。それにより精神科のみならず、内科や整形外科、産科といった他科の先生と顔の見える関係が構築でき、患者さんを紹介しやすくなります。またその会合には、那覇市立病院の院長がゲストとして時折招かれるので、病院における最近の取り組みなどについて話を伺う機会にもなっています。
今後
の
展望
地域の人に信頼され必要とされる
医療機関であり続けたい
地域の人に信頼され、必要とされる医療機関であり続けたいというのが、私の願いです。そのために、私自身の知識のアップデートに努めるとともに、精神科医療がきちんと地域の方々に届けられるよう、地域格差の是正に取り組んでいきたいと考えています。その一環として2023年に訪問診療を開始したので、今後も継続していきたいと思います。
その他、新規治療法の治験は社会的意義とともに患者さんにとってのメリットもあるので、可能な限り治験にも参加していきたいと考えています。