- 医療関係者向けホーム
- 医療関連情報
- 心電図クイズ
- 琉球大学 編 Q3
心電図クイズ
琉球大学 編
肥大型心筋症が疑われた36歳の男性
難易度
- 出題:
-
- 琉球大学大学院医学研究科 循環器・腎臓・神経内科学講座(第三内科)助教
當間 裕一郎 先生
- 琉球大学大学院医学研究科 循環器・腎臓・神経内科学講座(第三内科)助教
- 症 例
- 36歳,男性
- 主 訴
- 労作時息切れ
- 現病歴
- 6年前に心不全を発症し,近医にて心エコー図検査を施行。左室肥大を指摘され,肥大型心筋症が疑われ加療されていた。労作時息切れ,意識消失発作を認め,精査加療目的に当院へ紹介となった。来院時12誘導心電図,胸部X線写真,心エコー図を図1~3に示す
- 既往歴
- 特記事項なし
- 家族歴
- 心疾患の家族歴を含め,特記事項なし
- 身体所見
- 身長172cm,体重75kg,BMI 25.4,血圧98/78mmHg,脈拍88回/分・整,呼吸数14回/分
- 胸部聴診
- Ⅲ音,Ⅳ音なし,心雑音なし,呼吸音正常
- 四 肢
- 末梢冷感あり
- 血液検査
- WBC 6,500/μL,Hb 13.8g/dL,Plt 22.1×104/μL,Cre 0.83mg/dL,AST 39IU/L,ALT 26IU/L,LDH 328IU/L,ALP 623IU/L, γ-GTP 145IU/L, NT-proBNP 6,497pg/mL
- 心エコー図検査
- 左室中隔壁径19mm,左室後壁径20mm,左室駆出率35%
四肢誘導,V1~3誘導の変化
心アミロイドーシス(AL)
解 説
本症例の心電図所見と診断について
心電図所見(図1)を見ると、肥大型心筋症・高血圧性左室肥大に特徴的である高電位、ストレインパターン(ST低下を伴うT波陰転化)を認めない。胸部X線写真(図2)ではうっ血性心不全の所見を呈しており、心エコー図検査(図3)を見ると確かに、左室壁は著明に肥厚しており、肥大型心筋症による心不全が疑われる所見である。しかし、心電図ではむしろ四肢誘導での著明な低電位、胸部誘導にてR波増高不良を認め、前胸部誘導ではQSパターン(陳旧性心筋梗塞パターン)を認める。これらは心アミロイドーシスに特徴的な所見であり、肥大型心筋症などとの鑑別に有用な所見となる。最終的な診断は組織診断となり、本症例においては心電図所見からアミロイドーシスを疑い、心筋生検を施行したところ、コンゴ・レッド染色で陽性(図4)であり、免疫染色の結果からALアミロイドーシスが確定し、多発性骨髄腫などの合併はなく、原発性ALアミロイドーシスの診断となった。その他の心筋壁肥厚を呈する疾患とは異なり化学療法が主な治療法となり、近年ボルテゾミブなどが使用されることで、完全寛解率が改善している。そのため、いかに早く診断をするかが治療につながる鍵となり、心電図所見の読影が重要となる。アミロイドーシスにはその他にATTRタイプ、AAタイプなどに分類されるものがあるが、上記のような心電図所見はALアミロイドーシスに多く、その他のタイプでは頻度が低いとされる。また、この患者でははっきりしなかったが、アミロイドーシスを疑った場合、巨舌、爪の萎縮、筋力低下、自律神経障害(陰萎、胃腸症状、起立性低血圧、膀胱障害)、手根管症候群などの全身の徴候にも注意を払う必要がある。
本症例の経過と治療について
本症例では診断確定後、多発性骨髄腫に準じて化学療法を行う予定であったが、治療経過中に心室細動となり、心肺蘇生を試みたが心拍は再開せず、永眠された。