- 医療関係者向けホーム
- 医療関連情報
- 心電図クイズ
- 琉球大学 編 Q1
心電図クイズ
琉球大学 編
胸痛で来院した62歳の男性
難易度
- 出題:
-
- 琉球大学大学院医学研究科 循環器・腎臓・神経内科学講座(第三内科)助教
當間 裕一郎 先生
- 琉球大学大学院医学研究科 循環器・腎臓・神経内科学講座(第三内科)助教
- 症 例
- 62歳,男性
- 主 訴
- 胸痛
- 現病歴
- 生来健康。朝8時ごろに気分不良が出現し,徐々に胸痛,手足の痺れ,四肢の脱力感が強くなり,救急車を要請し,10時ごろに当院救急室を受診した。来院時12誘導心電図(右胸部誘導を含む)を図1,2に示す。
- 既往歴
- 数年前から健康診断で脂質代謝異常,高血圧,耐糖能異常を指摘されていたが,病院受診歴はなし。
- 家族歴
- 母:糖尿病
- 身体所見
- 身長169cm,体重70kg,BMI 24.5,血圧84/42mmHg,脈拍42回/分・不整,呼吸数17回/分
- 意識レベル
- Japan Coma Scale(JCS)Ⅰ-1
- 胸部聴診
- Ⅰ音が不定期に亢進,Ⅲ音,Ⅳ音なし,心雑音なし,呼吸音正常
- 胸部X線写真
- 心拡大なし,肺うっ血なし
- 血液検査
- WBC 10,500/μL,Hb 15.7g/dL,Plt 30.0×104/μL,Cre 1.15mg/dL,AST 34IU/L,ALT 70IU/L,LDH 189IU/L,CPK 98IU/L,CK-MB 2IU/L,HbA1c 6.1%,LDL-C 156mg/dL,TG 84mg/dL,HDL-C 34mg/dL,トロポニンT陽性
ST変化,右胸部誘導,トロポニンT陽性
右室梗塞を伴った急性下壁心筋梗塞、洞停止
解 説
本症例の心電図所見と診断について
まず、図1の心電図所見を見ると、Ⅱ、Ⅲ、aVF誘導でのST上昇を認め、Ⅰ、aVL、V5、 V6誘導では鏡面変化と思われるST低下を認める。自覚症状とST変化から、右冠動脈の閉塞による心筋梗塞が疑われる。さらに本症例においてはP波がほとんど見えず、RR間隔も整である(1拍の期外収縮を除き)。そのため洞停止の合併と房室結節レベルの補充調律であることを考える必要がある。完全房室ブロックは右冠動脈閉塞においては高頻度の合併症であるが、右冠動脈起始部付近からは洞結節枝も分岐しており、洞不全症候群となることもある。ただし血行再建の有無に関わらず、実際に永久ペースメーカー植え込みまで至るケースはまれである。これは器質的な障害というより、Bezold-Jarisch反射と呼ばれる血管迷走神経反射が原因となっていることが多い。特に、右冠動脈支配領域の左室下後壁は迷走神経受容体が多く、迷走神経反射による徐脈(洞不全、洞停止、房室ブロック)、血圧低下を来しやすいが、時間経過や血行再建で改善する。
また、本症例においては血圧も低下しており、右胸部誘導V3R~6RにおいてST上昇を認め、右室梗塞の合併が考えられる。右室機能が極端に低下すると、左室の前負荷が減少することにより心拍出量の低下を招き、心原性ショックとなる。通常、心筋梗塞の場合は左心不全による肺水腫のリスクを考慮し、輸液を控えることが多い。しかし、右室梗塞では前負荷を保つため輸液負荷を行う必要がある。また、右室梗塞では前負荷を減らすためニトログリセリンの投与は禁忌とされている。このように通常の心筋梗塞とは異なる治療が必要となるため、右胸部誘導を確認し、見落とさないことが大切である。
本症例の経過と治療について
前記の心電図所見と心エコー検査では下壁の壁運動が低下していたことから洞不全症候群、完全房室ブロック、右室梗塞を合併した急性下壁心筋梗塞が考えられ、輸液負荷を行い、経皮ペーシングを行いつつカテーテル検査室に搬送し緊急冠動脈造影を施行した。左冠動脈には有意狭窄は認めず、右冠動脈造影にてSeg. 1の近位部での閉塞を認め(図3)、引き続き緊急経皮的冠動脈形成術(PCI)を施行したところ、血流は改善した(図4)。その後、洞調律は回復し、2週間程度で退院となった。その後、再発などはなく、外来通院されている。