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2023年3月20日公開
本記事の内容は2023年3月時点の内容に基づく
肺高血圧症の疫学
肺動脈性肺高血圧症患者は増加傾向にある
肺動脈性肺高血圧症(PAH)は指定難病で希少疾患と呼ばれている。以前は若年者の割合が多く予後不良とされていたが、近年複数の治療薬の登場により予後が改善するとともに高齢化が進行、患者数も増加傾向にある(図1)。
肺高血圧症は日常診療でよく遭遇する左心性心疾患や
慢性閉塞性肺疾患との合併が報告されている
肺高血圧症(PH)の中で最も多いと想定されているのが左心性心疾患(LHD)に起因するPHである。国内におけるデータは十分ではないが、右心カテーテル検査データに基づく報告で20〜40%でPH合併があった1)(図2、3)。また慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPF)などの肺疾患に伴うPHに遭遇する機会は多く、Andersenらの肺移植のため評価を受けたCOPD患者を対象とした調査では36%でPH合併があったと報告されている(図4)。
日本循環器学会.肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂版) p53
早期診断・治療の重要性
速やかな治療開始が求められるため、
診断に迷う場合は躊躇せず専門施設に相談・紹介を
肺高血圧症(PH)では早期診断、治療の重要性が議論されており、肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂版)には、わが国では特に患者数が多いと考えられ、臨床的に重要な肺動脈性肺高血圧症(PAH)のサブグループである結合組織病に伴う肺動脈性高血圧症(CTD-PAH)に関して表1のように記載されている。
PHの診断において、リスクが高いと考えられる患者に対しては定期的なスクリーニングを考慮する等早期診断を目指す。
また、CTD-PAH患者の治療について、早期に肺血管拡張薬で積極的に治療を開始し、忍容性に問題なく継続できた例では、長期生命予後が良好であるというデータが蓄積されてきた。
また、海外では、2019年の米国胸部医学会(American College of Chest Physicians; ACCP)のガイドラインにおいてPAHの診断について表2のように記載され、また、診断アルゴリズムも図5のようになっており、PAHが疑われる患者はただちに専門施設で評価を行うよう記載されている。
肺高血圧症患者を見逃さないために
普段の診察時に肺高血圧症を疑うことが最も重要
まずは症状や身体所見(表3)、問診において肺高血圧症(PH)の疑いがある患者を見逃さないことが重要である。PHが疑われた場合は、まず心エコー検査を行い、PHの可能性を検討する。心エコー検査でPHの可能性が高い場合、血液検査、心電図、胸部X線などを施行する。
監修医推奨の肺高血圧症を見逃さないための問診方法
上記のPHの症状と身体所見を踏まえ、問診は表4を参考として行うことをお勧めする。
また、膠原病、強皮症患者のうち、PAHリスクの高い患者では、自覚症状の有無にかかわらず定期的なスクリーニングを実施し、PAHの早期発見に努める。実際に強皮症で積極的なスクリーニングを行うことで、PAHの診断時にNYHA/WHO機能分類Ⅰ度・Ⅱ度の軽症患者の割合が増え、生命予後も改善したことが示されている1)。
膠原病、強皮症患者の主訴はあくまで膠原病、強皮症の症状であり普段からPHの自覚症状に意識が及んでいないことが多い。そのため、隠れた自覚症状を把握するために表5で示すような以前の状態と比較した変化をとらえやすい質問がとても有効であると考える。
1)Humbert M, et al. Arthritis Rheum 2011 63(11):3522–30
各種検査での肺高血圧症が疑われる所見
健康診断や他の疾患の診察時に胸部X線検査(図6)や心電図検査(図7)を行った際に以下に示すような所見が認められた場合は、PHを疑うべきである。PHが疑われた場合は心エコーによる追加の検査(図8)や、専門施設への紹介を検討する。
患者紹介のタイミング
正確な診断のためには専門施設に紹介を
肺高血圧症(PH)の各群の鑑別のためには、まずは左心性心疾患(LHD)、肺疾患の存在を検索する。これが否定されれば肺動脈性肺高血圧症(PAH)か慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の可能性が高いと判断される。CTEPHの鑑別には肺換気-血流シンチグラムが有効だが、通常の造影CTでは正確な判断は難しい。PAHの可能性が高いと診断された場合には、結合組織病に伴うPAHや門脈肺高血圧症、先天性心疾患に伴うPAHなどを鑑別診断する。これらの検査結果の解釈は容易でない場合も多く、正確な診断は経験の豊富な専門施設で行うことが望ましい。
増加傾向にある高齢患者の多くは若年の典型的な特発性PAH(IPAH)の患者とは異なり、LHDの要素や肺疾患の要素を併せもっている。このような場合、治療としては併存するLHDや肺疾患に対する治療を行いつつ、PAHに対しては肺血管拡張薬を単剤治療から開始するなどIPAHとは異なるアプローチが必要になり、治療方針の判断が予後を左右することにもつながると考えられる。
PHは正確な鑑別診断と早期かつ適切な治療介入が必要である。専門施設紹介のタイミングに決まったものはないが、少しでもPHを疑うケースや鑑別診断が難しいと判断した場合には早期に専門施設へ紹介することをお勧めする(図9)。また近年では他の基礎疾患を抱える高齢の患者も増えているため、基礎疾患の治療に加え、PH治療を専門施設と連携して行うことが予後を改善するために重要であると考える。
2023年3月作成
17108-1/N8 A1 GT
PHは原因となる疾患を特定するため様々な検査が必要である。また個々の患者に応じて必要な強度の治療を選択する必要がある。診断・治療に迷う場合は遠慮せず専門施設に相談・紹介することをお勧めする。