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心電図クイズ

神戸大学 編

食道がん術後のリハビリ入院中にふらつきを自覚した77歳男性

難易度

出題:
  • 神戸大学大学院医学研究科 内科学講座・循環器内科学分野 病院診療医 
    庄田 光彦 先生
症 例
77歳,男性
主 訴
ふらつき
現病歴
食道がんの手術目的で入院し,胸腔鏡手術を受けた。その後,リハビリ目的の入院中にふらつきを自覚し,同時刻のモニター心電図にて一過性の徐脈が確認された。来院時の12誘導心電図を図1,徐脈時のモニター心電図を図2に示す。
既往歴
高血圧症,逆流性食道炎
内服薬
ベニジピン8mg/日,ランソプラゾール15mg/日
身体所見
血圧114/56mmHg,脈拍80回/分・整,身長161cm,体重60kg
胸部聴診
音,音なし,心雑音なし
血液検査
WBC 6,300/μL,Hb 9.2g/dL,Plt 56.8×104/μL,BUN 18mg/dL,Cre 0.73mg/dL,AST 25IU/L,ALT 12IU/L,LDH 250IU/L,
Na 135mEq/L,K 4.6mEq/L,Cl 105mEq/L,BNP 22.4pg/mL
心エコー図検査
左室拡張末期径43mm,左室収縮末期径26mm,左房径32mm,左室駆出率68%,有意な弁膜症は認めない。

図1.来院時12誘導心電図

図2.徐脈時モニター心電図

P波,QRS波

発作性房室ブロック(paroxysmal atrioventricular block:paroxysmal AVB)

解 説

本症例の心電図所見と診断について

本症例は発作性に徐脈となっており,最大約9秒の心停止を認めている。その間,P波は確認できており,paroxysmal AVBと診断できる。12誘導心電図ではPR 174msec,QRS 102msecと房室ブロックや心室内の伝導遅延を示す所見は認められない。paroxysmal AVBとなる直前にはPP間隔,PR間隔が延長しており,房室ブロック中のPP間隔にも延長を認めている。

paroxysmal AVBには,①器質的な房室伝導障害を背景として生じるタイプ(intrinsic AVB),②迷走神経が関与して発症するタイプ(extrinsic vagal AVB),③特発性の発作性房室ブロック(extrinsic idiopathic AVB)の3タイプが報告されている1~3)本症例の12誘導心電図では器質的な房室伝導障害を認めておらず,心エコー図検査でも器質的心疾患は確認されていないことから,①のintrinsic AVBは否定的と考えられた。

迷走神経反射が関与する②の場合,誘因を伴い発汗やめまいなどの前駆症状を示すことが多いとされる。本症例でははっきりとした前駆症状を認めなかったが,paroxysmal AVBが生じる直前にPP間隔とPR間隔の延長が見られ,房室ブロック中にもPP間隔が延長し,房室伝導の回復と並行してPP間隔が改善している経過から,②のextrinsic vagal AVBである可能性が考えられた。胸腔鏡手術に伴って自律神経障害が生じることが報告されており4)術後からparoxysmal AVBを来すようになった経過からはその関連も疑われた。

③のextrinsic idiopathic AVBは心疾患や心電図異常を有さず,明らかな誘因がない状況で発作的に房室ブロックを来す。血中アデノシン濃度が低く,外因性アデノシンに対する感受性が高いことが特徴と報告されている。房室ブロックを来す直前や房室ブロック中にPP間隔やPR間隔は変化しないことが多く,今回のモニター心電図所見からは否定的と考えられた。

本症例の経過と治療について

リハビリ入院中に複数回のparoxysmal AVBを認めており,失神予防としてペースメーカーの植え込みを行う方針とした。心機能低下は認めておらず,発作時のバックアップペーシングのみが必要な症例であること,さらに器質的な房室伝導障害を有さず今後持続的な房室ブロックとなるリスクが低いことを考え,リードレスペースメーカーの留置を行い自宅退院となった。

文献
  1. 1)Bansal R, et al. J Arrhythm 2019; 35: 870-2.
  2. 2)Brignole M, et al. J Am Coll Cardiol 2011; 58: 167-73.
  3. 3)Aste M, et al. J Arrhythm 2017; 33: 562-7.
  4. 4)Frandsen MN, et al. J Clin Monit Comput 2023; 37: 1071-9.

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