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心電図クイズ
神戸大学 編
動悸を訴えた19歳の男性
難易度
- 出題:
-
- 神戸大学大学院医学研究科 内科学講座・循環器内科学分野 病院診療医
高橋 良輔 先生
- 神戸大学大学院医学研究科 内科学講座・循環器内科学分野 病院診療医
- 症 例
- 19歳,男性
- 主 訴
- 動悸
- 現病歴
- 生来健康だが今回初発の動悸症状で近医を受診。心拍数200回/分を超える心電図波形が記録され,当院救急室へ紹介となった。来院時の12誘導心電図を図1に示す。
- 既往歴
- なし
- 家族歴
- 弟が不整脈の既往あり
- 主な内服薬
- なし
- 身体所見
- 血圧108/64mmHg,脈拍210回/分・不整,身長169.6cm,体重49.3kg
- 胸部聴診
- Ⅲ音,Ⅳ音なし,心雑音なし,呼吸音正常
- 血液検査
- WBC 7,300/μL,Hb 14.0g/dL,Plt 26.0×104/μL,BUN 10.5mg/dL,Cre 0.68mg/dL,AST 19IU/L,ALT 12IU/L,LDH 137IU/L,
Na 140mEq/L,K 4.4mEq/L,Cl 105mEq/L,BNP 2.97pg/mL - 心エコー図検査
- 左室拡張末期径48.6mm,左室収縮末期径35.3mm,左室駆出率53.1%,有意な弁膜症は認めない。
RR間隔,QRS幅
ウォルフ・パーキンソン・ホワイト(WPW)症候群(A型)+心房細動(AF)
解 説
本症例の心電図所見と診断について
本症例は,典型的なWPW症候群にAFを合併した例である。電気的除細動後の洞調律時心電図(図2)では,Δ波が確認され,WPW症候群と診断された。AF時には,Kent束を介した異常伝導により,QRS幅および調律が不規則なwide QRS頻拍を呈している。リズムが不規則なのはAFによるものであり,QRS波形が不規則かつwideになるのは,房室結節伝導とKent束を介した順行性伝導が入り混じるためである1)。
Kent束の局在を予測するアルゴリズムとして,従来知られているArrudaアルゴリズムに加え,近年はより簡便なEasy-WPWアルゴリズムが提唱されている2)。このアルゴリズムによると,V1誘導でのR波優位性,Ⅲ>Ⅱ誘導での陽性Δ波から,本症例におけるKent束の局在は左室前側壁に存在すると予想された。
本症例の経過と治療について
本症例ではAFを伴いKent束を順伝導したwide QRS頻拍になっており,発作性上室性頻拍に通常使用可能なアデノシンやβ遮断薬,Ca拮抗薬,ジギタリスは禁忌となる。これらの薬剤は房室結節の伝導を抑制し,副伝導路を介した伝導を相対的に優位にして心室細動(VF)へ移行するリスクがあるためである。使用可能な薬剤としてはⅠa群,Ⅰc群,Ⅲ群の抗不整脈薬に限られる。血行動態が不安定な場合や抗不整脈薬の効果が不十分な場合は電気的除細動が検討される2)。本症例でも電気的除細動を行い,洞調律へ復帰させた。AFがVFへ移行する高リスク症例は,Kent束の不応期が240msec以下,最短のRR間隔が250msec以下とされている3)。
症候性の頻脈性心房細動に合併したWPW症候群であり,クラスⅠ適応となるためカテーテルアブレーションを施行した。術中所見ではKent束の不応期は240msecであり,AF時にVFに移行するリスクの高い症例と考えられた。僧帽弁輪前側壁にKent束が存在し,焼灼することでΔ波は消失した(図3)。
若年のAF合併例は珍しい症例であるが,一般的にWPW症候群では非WPW症候群と比べてAFの発症リスクが1.55倍高いといわれている。また,WPW症候群でKent束のアブレーションを受けた場合においても,アブレーションを受けなかった群よりAFの発症率が2.68倍高いという報告もある4)。これはWPWが単なる伝導異常にとどまらず,心房自体の基質に問題がある可能性を示唆している。このため,AFを併発しているWPW症候群の患者ではAFの長期的な監視が必要と考えられる。本症例は,若年の初回AF症例であり,AFに対してはカテーテルアブレーションを施行しなかったが,長期的かつ慎重に経過観察する必要がある。
文献
- 1)Brugada J, et al. Eur Heart J 2020; 41: 655-720.
- 2)El Hamriti M, et al. Europace 2023; 25: 600-9.
- 3)Escudero CA, et al. Heart Rhythm 2020; 17: 1729-37.
- 4)Bunch TJ, et al. Circ Arrhythm Electrophysiol 2015; 8: 1465-71.



