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心電図クイズ
神戸大学 編
運動中に胸部不快感を自覚し救急要請した63歳男性
難易度
- 出題:
-
- 神戸大学大学院医学研究科 内科学講座・循環器内科学分野 病院診療医
庄田 光彦 先生
- 神戸大学大学院医学研究科 内科学講座・循環器内科学分野 病院診療医
- 症 例
- 63歳,男性
- 主 訴
- 胸部不快感
- 現病歴
- 趣味であるテニスをしている際に胸部不快感を自覚し,嘔気,気分不良が出現,動けなくなり救急要請した。来院時の12誘導心電図を図1,リドカイン投与後の12誘導心電図を図2に示す。
- 既往歴
- 2型糖尿病,脂質異常症
- 内服薬
- メトホルミン1,000mg/日,リナグリプチン5mg/日,アトルバスタチン10mg/日
- 身体所見
- 血圧60/39mmHg,脈拍201回/分・整,身長170cm,体重57kg
- 胸部聴診
- Ⅲ音,Ⅳ音なし,心雑音なし
- 血液検査
- WBC 8,500/μL,Hb 15.7g/dL,Plt 18.2×104/μL,BUN 42.8mg/dL,Cre 1.63mg/dL,AST 271IU/L,ALT 150IU/L,LDH 403IU/L,
Na 139mEq/L,K 5.2mEq/L,Cl 101mEq/L,BNP 50.6pg/mL - 心エコー図検査
- 左室拡張末期径39mm,左室収縮末期径23mm,左房径29mm,左室駆出率68%,右心房と右心室に拡大あり,有意な弁膜症は認めない。
リドカイン投与後のV1~V3誘導のT波
不整脈原性心筋症に合併した心室頻拍
解 説
本症例の心電図所見と診断について
来院時の心電図はwide QRS頻拍,左脚ブロック型,上方軸(Ⅱ,Ⅲ,aVF誘導で陰性QRS,aVL誘導で陽性QRS)でショック状態を呈しており,リドカインで停止したことから持続性心室頻拍と診断した。頻拍停止後の心電図は洞調律で,心室内伝導障害を有し右側胸部誘導(V1~V3誘導)で陰性T波を認めている。心エコー図検査では左室収縮能の低下や左室拡大は認めず,右心系の拡大を認めた。心臓MRIでは心室基部中隔および左室心尖部に遅延造影を認めた。また,右室壁運動異常,右室拡大(拡張末期容積261mL)も認めた。以上から不整脈原性心筋症と診断した。本症例では心筋生検を実施していないが,心臓局所の機能障害,構造的変化(心エコー図検査および心臓MRI),12誘導心電図での再分極異常,不整脈(心室頻拍)から診断可能であった1)。
不整脈原性心筋症は右心室を中心に脂肪変性・線維化が進行する疾患で,右室起源の心室不整脈による突然死の原因となる。今回の心室頻拍も12誘導心電図波形からは右室後側壁の心基部起源が疑われる。右室のみならず両心室に病変が認められる場合もあり,不整脈原性心筋症と呼ばれている。運動強度に応じて進行することが報告されており2),運動歴の詳細な聴取は重要である。不整脈原性心筋症におけるカテコラミン増加は心室不整脈の誘発に影響を及ぼすことから,強度の高い運動は制限する必要がある。
本症例の経過と治療について
救急外来でリドカインの投与により心室頻拍は停止した。アミオダロン100mgの内服を開始し,以降は心室頻拍の再燃なく経過した。心室頻拍に対するカテーテルアブレーションも検討したが,初回の頻拍発作であり入院後は再燃なく,薬物治療で経過観察の方針となった。二次予防として経静脈的植え込み型除細動器の植え込みを行った。
文献
- 1)日本循環器学会.心筋症診療ガイドライン(2018年改訂版).
- 2)James CA, et al. J Am Coll Cardiol 2013; 62: 1290-7.