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心電図クイズ
旭川医科大学 編
動悸発作を繰り返し,心不全を併発した20歳男性
難易度
- 出題:
-
- 旭川医科大学 内科学講座 循環・呼吸・神経病態内科学分野
田邊 康子 先生
- 旭川医科大学 内科学講座 循環・呼吸・神経病態内科学分野
- 症 例
- 20歳,男性
- 主 訴
- 動悸,息切れ
- 既往歴
- 特記事項なし
- 現病歴
- 2009年(14歳)ごろから時折,動悸を自覚していたが自然軽快するため様子を見ていた。2015年10月(19歳)に動悸が数日間持続し,検脈したところ脈拍数200/分であったため,医療機関を受診。ベラパミル5mgの静注で症状改善し,脈拍数は60/分に安定。発作性上室性頻拍と診断され,動悸時にベラパミル40mgの内服頓用で経過観察となった。しかし2016年1月(20歳)から動悸発作が頻回となり,ベラパミルの内服で対処していたが徐々に息切れが出現し,動悸も数日間持続するようになったため当院を受診した。外来受診時の心電図を図1に示す。
- 身体所見
- 身長174cm,体重64kg,血圧96/58mmHg,脈拍162/分・整,体温36.8℃,心音 心雑音なし,呼吸音 両側肺野に吸気時湿性ラ音を聴取,腹部 異常なし,四肢 両側下腿浮腫軽度
- 検査所見
-
胸部単純X線 心胸郭比48.8%,肺うっ血(+)心エコー図検査 LVDd/Ds 50/29mm,EF 68%,IVS/LVPW 9/9mm
明らかな壁運動異常はなし,器質的心疾患を疑う所見なし
右脚ブロック,左軸偏位
特発性心室頻拍(左脚後枝起源 ベラパミル感受性心室頻拍)
解 説
本症例の心電図所見と経過
発作時の心電図は,心拍数150/分の頻拍。QRS波形はQRS間隔が120msのwide QRS波形で右脚ブロック,左軸偏位,QRS前方に明らかなP波は存在しない。受診後ベラパミルを静注したところ,今回も頻拍は停止した。非発作時の心電図(図2)では異常を認めず,心エコーでは器質的心疾患を疑う所見もなかった。
wide QRS頻拍の鑑別としては,変行伝導を伴う上室性頻拍と心室頻拍が挙げられる。本症例は頻拍時の電気軸は-70度の左軸偏位を示し,心室頻拍が疑われた。またベラパミルが著効し,頻拍中のQRS波形が右脚ブロック,左軸偏位という左脚後枝起源の特発性心室頻拍に特徴的な所見であったことから,上記診断となった。
しかし本症例も前医で上室性頻拍と診断されていたように,①ベラパミルが著効する,②QRS幅が比較的narrowである,③発作中の血行動態が保たれている,④頻拍中に正常伝導の逆伝導を介する心房への1:1逆伝導を呈して,QRS波形の終末部に逆伝導P波を認める-もあり,左脚後枝起源の特発性心室頻拍は上室性頻拍との鑑別が難しいこともある。また,心室頻拍中の血行動態が保たれていることが多く,動悸の自覚症状が軽度である場合,特に小児では正常洞調律時の心拍数も成人と比べて高めであるため,頻拍発作とは気付かずに数日間心室頻拍が持続したまま経過し,本症例のように頻拍性心不全を生じてから心不全症状で外来を受診することもある。
特発性心室頻拍について
心室頻拍の多くはなんらかの器質的心疾患に合併して発症するが,明らかな器質的心疾患を有さない特発性心室頻拍(idiopathic ventricular tachycardia)が存在する。代表的な起源として左右の心室流出路,左室脚枝領域が挙げられる。左室脚枝領域起源特発性心室頻拍は,若年者に好発し,ベラパミルが頻拍の誘発抑制と停止に有効で,ベラパミル感受性心室頻拍とも呼ばれる。左室脚枝起源の心室頻拍は,本症例のような左脚後枝領域起源が約90%と最も多く見られ,心室頻拍中のQRS波形は右脚ブロック,左軸偏位を示す。
頻拍の機序としては,左脚後枝とその周囲に存在する緩徐遅延伝導(slow conduction)部位の間で発生するリエントリーと考えられている。
治療はベラパミルが著効するが,カテーテル焼灼術による根治が可能である(図3)。