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心電図クイズ
鹿児島大学 編
心室細動蘇生後の20歳男性
難易度
- 出題:
-
- 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 心臓血管・高血圧内科学(現:枕崎市立病院 副院長)
市來 仁志 先生
- 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 心臓血管・高血圧内科学(現:枕崎市立病院 副院長)
- 症 例
- 20歳,男性
- 主 訴
- 心室細動蘇生後
- 現病歴
- 午前4時30分ごろ,フェリー乗船中(睡眠中)に突然うめき声を上げて心肺停止の状態になったため,たまたま乗り合わせていた看護師により蘇生が行われた。この際のAEDにて心室細動が記録されており,心室細動蘇生後に対する植え込み型除細動器(ICD)植え込み目的にて当院へ紹介入院となった。入院時の12誘導心電図を図に示す。
- 既往歴
- 失神の既往(−)
- 家族歴
- 父親が32歳時に夜勤中に突然死
- 身体所見
- 身長174.8cm,体重65.2kg,血圧130/80mmHg,脈拍60/分・整,心雑音なし,呼吸音異常なし,腹部異常なし
- 検査成績
- 採血:電解質異常なし(K:4.1mEq/L)
心臓超音波検査:特記異常所見なし(LVEF 62.0%)
加算平均心電図:Late potential陰性
心室細動,QRS終末部に注目
早期再分極(J波)症候群
解 説
本症例の心電図と経過
入院後に施行した冠動脈CTにて冠動脈に有意狭窄は認められず,心臓MRIではガドリニウム遅延造影は認められなかった。入院時の心電図でⅠ,aVL,V3~6のST上昇およびノッチが認められ,心室細動蘇生後であること,心室細動の原因となりうる基礎疾患が認められないこと,若年性突然死の家族歴から,J波症候群と診断した。心室細動蘇生後であることから,本人と家族に十分説明をした上でICD植え込みを施行した。退院5カ月後に心室細動に対するICDの頻回作動があり,入院時にシロスタゾール100mg/日の定期内服を開始した。現在,内服治療下に心室細動は認められず,経過観察中である。
J波症候群について
J波の定義については,「ST-T接合部の上昇,QRS終末部に見られるノッチやスラーで,近接する2誘導以上で0.1mV以上の上昇を示すもの」とされている。健常者でのJ波所見の出現頻度は3~20%程度であり,これまでは良性所見と考えられてきた。しかし,特発性心室細動の患者にJ波所見が高率に認められることが判明したことから,「早期再分極(J波)症候群」と呼ばれるようになった。J波症候群は,心電図上のJ波所見を認める誘導により,type 1~ type 3に分類されている(表)1)。
また,J波症候群とBrugada症候群は,かなりoverlapする疾患と考えられているが,薬物に対する反応にやや相違が見られる(表)1)。下壁誘導(Ⅱ,Ⅲ,aVF)のJ波は側壁誘導(Ⅰ,aVL,V4~6)のJ波と比較してリスクが高く,特に下壁誘導にて0.2mV以上のJ波が認められる場合は,J波を有さない症例と比較して不整脈による死亡が2.92倍と高リスクであることが報告されている。
治療は,心室細動蘇生例に対しては原則としてICD植え込みが適応され,electrical storm時はイソプロテレノールの点滴静注が有効であり,慢性期のVF抑制にキニジンやシロスタゾールが高い有効性を持つことが報告されている。
文献
- 1)Tikkanen JT, et al. N Eng J Med 2009; 361: 2529-37.