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心電図クイズ
鹿児島大学 編
動悸、眼前暗黒感が出現した60歳代女性
難易度
- 出題:
-
- 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 心臓血管・高血圧内科学(現:川内市医師会立市民病院)
鎌田 博之 先生
- 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 心臓血管・高血圧内科学(現:川内市医師会立市民病院)
- 症 例
- 60歳代,女性
- 主 訴
- 動悸,眼前暗黒感
- 現病歴
- X−1年に動悸,眼前暗黒感が出現したが,徐々に改善したため放置していた。X年4月,労作時息切れを自覚し,近医受診。HR 175bpm,wide QRS tachycardiaを認め,ベラパミルを使用するも改善せず,アミオダロンを静注し,不整脈は消失した。X年5月,不整脈精査加療目的で当院へ紹介受診。
- 既往歴
- 30歳代に胆囊摘出術
- 現 症
- 身長148.8cm,体重51.85kg,脈拍72/分・整,血圧123/87mmHg,身体所見に特記なし
- 血液所見
- WBC 5,490/μL,Hb 16.0g/dL,Plt 26.1万/μL,Na 137mEq/L,K 3.7mEq/L,Cl 94mEq/L,CK 36IU/L,CRP 0.03mg/dL,FBS 138mg/dL,HbA1c 7.0%(NGSP),PT-INR 1.16,APTT 39sec,D-dimer <0.4μg/mL,FT4 1.41ng/dL,FT3 2.3pg/dL,TSH 4.63μU/mL,BNP 136.8pg/mL
wide QRS tachycardiaの鑑別は?
偽性心室頻拍(WPW症候群+発作性心房細動)
解 説
本症例の心電図所見と経過
発作時心電図(図1)は,HR 175bpmのwide QRS tachycardiaで,肢誘導心電図ではRR間隔が不整なところがある。一見すると心室頻拍に見えるが,wide QRS tachycardiaを来す疾患は心室頻拍だけでなく,副伝導路を順行性に伝わる頻拍(偽性心室頻拍),変行伝導・脚ブロックを伴う上室頻拍も挙げられる。RR間隔が不整であり,心房細動とWPW症候群の合併,心房細動と変行伝導・脚ブロックの合併を考える必要がある。
非発作時12誘導心電図(図2)は正常洞調律で,PQ時間は0.1秒前後と短縮し,デルタ波を認めることから,WPW症候群に心房細動を合併していたと判断した。V1誘導でR>S,aVF誘導のデルタ波の極性が陽性であり,左側側壁・前壁副伝導路の存在が推測された。
偽性心室頻拍の治療
まず,病歴聴取や心電図検査にて正しい診断を行うことが重要である。意識がなく,血行動態に影響を及ぼしていれば,直ちに直流通電による除細動が必要である。意識が保たれ血圧が十分であれば,抗不整脈薬を静注する。薬剤は,Ⅰ群抗不整脈薬(ジソピラミド,プロカインアミド,シベンゾリンなど)を用いる。Ⅰ群抗不整脈薬は,副伝導路の伝導遅延による心室応答の低下作用と,心房細動の除細動効果を併せ持っている。ただし心機能の悪い患者には,陰性変力作用が悪影響を及ぼす可能性があるため,注意が必要である。
薬剤が無効な場合は,除細動を検討する。急性期を脱した患者には,副伝導路アブレーションを検討する。不整脈の非薬物治療のガイドラインによると,生命の危機がある心房細動発作などの重篤な症状や,症状が軽くてもQOL低下を伴う頻拍発作の既往があるとき,また,頻拍発作がありカテーテルアブレーションを患者が希望したとき,さらに,早期興奮があり,発作によって人身事故発生の可能性がある公共交通機関の運転手などはClassⅠの適応とされている。
今回の症例では前失神症状を呈しており,今後も症状が繰り返し起こる可能性が高いため,カテーテルアブレーションを施行した。また,本人が心房細動に対しても治療を希望したため,同時に治療を行った。電気生理学的検査にて,Kent束が左側壁に確認され,同部位焼灼を行った。Kent束離断を確認し,心房細動に対しては,CFAE(Complex fractionated atrial electrograms)を標的に焼灼を行い,洞調律で終了した。その後,偽性心室頻拍の再発はなく経過している。
文献
- 1)細田瑳一ほか:WPW症候群,医学書院,1997.
- 2)宮崎利久:EPカンファレンス第2版,MEDSi,2011.