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心電図クイズ

東京大学 編

食事中に失神を来した17歳男性

難易度

出題:
  • 東京大学医学部附属病院 循環器内科 病院診療医 
    山﨑 允喬 先生
  • 東京大学医学部附属病院 循環器内科 助教 
    山形 研一郎 先生
症 例
17歳,男性
主 訴
失神
現病歴
小学校1年生時の学校健診にて心電図異常を指摘され,近医小児科で経過観察されていたが無症状で過ごしていた。学校での食事中に突然失神し救急搬送された。その時点では洞調律で経過観察となっており,後日失神の精査目的で当院紹介受診となった。来院時の12誘導心電図を図1に示す。
既往歴
なし
内服歴
ナドロール60mg/日
家族歴
父に心電図異常の指摘あるが無症状で経過,若年突然死の家族歴なし
身体所見
血圧113/55mmHg,脈拍54回/分・整,身長168cm,体重61kg
胸部聴診
音,音なし,心雑音なし,呼吸音正常
血液検査
WBC 6,200/μL,Hb 16.3g/dL,Plt 25.3×104/μL,BUN 15.8mg/dL,Cre 0.86mg/dL,AST 25IU/L,ALT 21IU/L,LDH 280IU/L,
Na 140mEq/L,K 4.3mEq/L,Cl 104mEq/L,BNP 5.6pg/mL
心エコー図検査
左室拡張末期径49mm,左室収縮末期径32mm,左室駆出率61%,左房径34mm,有意な弁膜症は認めない。

図1.来院時12誘導心電図

QT間隔,T波の性状

先天性QT延長症候群2型(LQT2)

解 説

本症例の心電図所見と診断について

本症例ではQTcが549msecと延長しており,学校健診での心電図異常指摘や家族歴から先天性QT延長症候群(LQTS)が疑われた。LQTSはイオンチャネル遺伝子または調節蛋白遺伝子の変異により心筋細胞の再分極異常を来し,心電図上ではQT延長を示す。torsade de pointesから失神,突然死などを引き起こす症候群である。通常,QT間隔の測定にはV5誘導または誘導が用いられる。測定方法には接線法と微分法があるが,マニュアルでは接線法が推奨されており,Bazettの式で求めた補正QT時間(QTc)440msec以上の場合をQT延長と定義する。

LQTSは心電図所見,臨床症状,遺伝子検査によって診断する。本症例でのSchwartzのリスクスコアはQTcの延長:3点,運動負荷後4分のQTc(500msec):1点,ストレスに伴う失神:2点,LQTS家族歴:1点の合計7点であり,診断確定となった1)さらに遺伝子検査にてKCNH2の病的変異が指摘されたため,LQT2と考えられた。

LQTSの主要3病型であるLQT1,LQT2,LQT3はそれぞれ原因遺伝子,心電図のT波所見,発症の誘因などが異なることが知られており,LQT2では二峰性T波やノッチを伴うT波が特徴である。来院時心電図(図1)・初診時の心電図(図2)はともに胸部誘導でのノッチを伴うT波が明瞭である。また失神や痙攣などの症状出現は,LQT1では5~10歳から,LQT2では15~20歳から増加するとされており2)本症例の症状出現時期は典型的である。

本症例の経過と治療について

本症例は既にLQT2の第一選択薬であるナドロール60mg/日を使用中であったものの,QTc 549msecと治療抵抗性を示した。植え込み型除細動器(ICD)植え込み術についてはclass a適応であり,施行を提案したものの,本人の拒否感が強く見送ることとなり,薬物による治療強化が望ましい状態であった。メキシレチンは以前からNaチャネルの機能獲得型変異(主にSCN5A)に由来するLQT3に対して有効とされてきたが,メタ解析ではLQT3に有効性は劣るものの,LQT2においても有意なQT短縮効果が報告されている3)本症例でも負荷試験で有効性を確認後に内服を追加したところ,QTc 458msecと著明な改善が認められ,以後は失神なく経過している(図3)。

文献
  1. 1)日本循環器学会.遺伝性不整脈の診療に関するガイドライン(2017年改訂版).
  2. 2)Kutyifa V, et al. Ann Noninvasive Electrocardiol 2018; 23: e12537.
  3. 3)Yang Y, et al. J Cardiovasc Electrophysiol 2021; 32: 3057-3067.

図2.9歳初診時の12誘導心電図

図3.メキシレチン追加後の12誘導心電図

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