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心電図クイズ
大阪大学 編
起座呼吸で救急搬送された85歳男性
難易度
- 出題:
-
- 大阪大学大学院医学系研究科 循環器内科学
水野 裕八 先生
- 大阪大学大学院医学系研究科 循環器内科学
- 症 例
- 85歳,男性
- 主 訴
- 安静時胸痛,起座呼吸
- 現病歴
- 2003年より労作性狭心症と診断されており,過去に複数回の経皮的カテーテル冠動脈形成(PCI)を他院にて施行されていた。1週間前より感冒を契機に労作時呼吸困難が出現し増悪。受診前日は呼吸困難感のため,就寝時臥床が困難な状態であった。外来受診時の心電図を図1に示す。
- 既往歴
- 高血圧,脂質異常症,56歳まで喫煙(30本/日)
- 身体所見
- 身長161cm,体重63kg,血圧118/64mmHg,脈拍75/分・整,体温37.0℃,Ⅲ音聴取,両側中下肺野に湿性ラ音聴取,腹部異常なし,下腿浮腫なし
- 検査所見
- 血液生化学:WBC 11,880/μL,Hb 10.7g/dL,CK 276U/L,CKMB 5.2ng/mL,TnI 6.65ng/mL
心臓超音波検査:LVDd/Ds 51/37mm,EF 37%
中間部~心尖部の前側壁にsevere hypokinesisがあるが壁菲薄化は認めない。
ST低下部位,QRS幅
不安定狭心症(前側壁の広範囲虚血)
解 説
本症例の心電図所見と経過
前胸部誘導(V1~V4)におけるR波増高不良,また,下壁誘導(Ⅱ,aVF)および側壁誘導(Ⅰ,V5,V6)におけるSTの低下とT波の陰転,aVR誘導におけるST上昇が認められる。さらに,前胸部誘導においてQRS幅は0.102秒と拡大しており,心室内伝導障害を来していることを併せて考えると,前壁および側壁(場合によっては下壁)を含む広範囲の虚血が疑われる。来院時起座呼吸を伴う急性心不全の状態であり,非侵襲的陽圧換気装着・大動脈バルーンパンピング挿入の上で冠動脈造影を施行したところ,左前下行枝seg 6入口部,左回旋枝seg 11入口部にそれぞれ99%のステント内高度狭窄(図2)を,また右冠動脈seg 2にも75%の狭窄病変が認められた。反復する多枝の再狭窄病変を有する冠動脈疾患症例であり,緊急冠動脈バイパス術を施行した。
aVR誘導におけるST上昇の意義
一般に,aVR誘導におけるST上昇は,左主幹部,もしくはそれに相当する広範囲の心筋虚血を示すとされ,その感度・特異度はそれぞれ80%以上とする報告がある。通常,aVR誘導は,下壁誘導(Ⅱ/Ⅲ/aVF誘導)や側壁誘導(Ⅰ/aVL誘導)に逆行し注意を払われることは少ない。しかし,極性を反転させた−aVR誘導を想定すると,前頭面において−30°~+120°までの連続的な誘導を30°ごとに得ることができる。これを本症例に当てはめると,肢誘導におけるST低下はⅠ,−aVR,Ⅱ,aVF(0°~90°)で認められており,胸部単極誘導におけるR波減高,ST低下と併せて考えると左室前壁から側壁の極めて広範な部分が虚血にさらされていることがわかる(図3)。この概念を拡張し,標準12誘導とそれぞれの波形を裏返したものを心臓の解剖に沿って展開したものが24誘導心電図であり,障害部位・範囲を容易に把握する一助となりうる。