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- 大阪大学 編 Q3
心電図クイズ
大阪大学 編
健診で異常を指摘された15歳女児
難易度
- 出題:
-
- 大阪大学大学院医学系研究科 循環器内科学
水野 裕八 先生
- 大阪大学大学院医学系研究科 循環器内科学
- 症 例
- 15歳,女性
- 主 訴
- なし
- 現病歴
- 生来健康。これまでに胸部症状を自覚したことはない。学校健診の心電図にて異常を指摘され,精査目的に当院を受診した。外来受診時の心電図を図1に示す。学校では運動(ダンス)部に所属。
- 家族歴
- 特記事項なし
- 身体所見
- 身長166cm,体重51kg,血圧102/72mmHg,脈拍71/分・整,体温36.0℃,心音清,正常肺胞呼吸音,腹部異常なし,下腿浮腫なし
- 検査所見
- 心臓超音波検査:LVDd/Ds 44/27mm,EF 68%,IVST/PWT 7/6mm,明らかな壁運動異常なし
Holter心電図:総心拍88,937拍(最大HR 144/分,最小HR 40/分),上室性不整脈なし,心室性不整脈1拍(単発)
QT時間,学校健診
先天性QT延長症候群(LQTS)疑い
解 説
本症例の心電図所見と経過
心拍数72/分,QT=429ms,QTc=470msと中等度延長が認められる。また再現性に乏しいものの,V2~V4においてnotch状のT波が認められる箇所が存在する(特に3拍目)。失神歴および突然死の家族歴はなく,現在行っているダンス部の部活動の可否を判定するために運動負荷試験を施行したところ,QT時間の著明な延長が認められ(図2),負荷4分後のQTcは481msであった。Schwarzらによる診断基準では,診断確実(≧3.5点)もしくは疑診(1.5~3点)に該当し,先天性LQTS(LQT1もしくは2)が疑われた。現在,リスク層別化,治療方針決定のため,家族を含めた遺伝子検査など精査が進行中である。
LQTSについて
LQTSは,心電図上QT時間の延長を認め,torsade de pointes(TdP)や心室細動などの重症不整脈を呈する疾患群である。QT延長を来す明らかな要因(薬剤や電解質異常)の有無により先天性・二次性に大別されてきたが,先天性素因に特定の二次要因が加わることによりQT延長が顕在化する例が報告され,両者の区別は以前ほど厳密ではない。先天性LQTSのうち,明らかな遺伝性を伴う例は1950~60年代に報告され,遺伝様式および先天性聾唖の有無によりRomano-Ward症候群およびJervell-Lange Nielsen症候群と呼称された。近年,QT延長症候群においてイオンチャネル遺伝子異常の関連を示唆する報告が相次ぎ,現在では,Romano-Ward症候群はLQT1-13,Jervell-Lange Nielsen症候群ではJLN1-2の遺伝子型に分類されている。LQT1/2/3の頻度が他に比べて圧倒的に高く全体の80~90%を占め,臨床的特徴との関連も多く検討されているため,臨床的にはこの三者の特徴を理解することが重要である(表)。TdPなどの不整脈発作急性期には硫酸マグネシウム,発作予防には遺伝子型によりβ遮断薬やメキシレチンの投与が行われる。生活制限・薬物療法下においても致死性不整脈発作がコントロールできない場合には,植え込み型除細動器(ICD)や左心臓交感神経節切除術などの非薬物治療が考慮される。