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心電図クイズ
大阪大学 編
労作時息切れを主訴とする58歳男性
難易度
- 出題:
-
- 大阪大学大学院医学系研究科 循環器内科学
水野 裕八 先生
- 大阪大学大学院医学系研究科 循環器内科学
- 症 例
- 58歳,男性
- 主 訴
- 労作時息切れ
- 現病歴
- 10年前より健診にて不整脈を指摘されていたが症状なく経過観察されていた。約2年前より階段昇降時の息切れが出現・増強し,精査目的で当院を受診した。外来受診時の心電図を図1に示す。
- 既往歴
- 55歳まで喫煙(10本/日)
- 身体所見
- 身長168cm,体重61kg,血圧118/80mmHg,脈拍50/分・整(脈拍欠損あり),体温36.2℃,心音清,正常肺胞呼吸音,腹部異常なし,下腿浮腫なし
- 検査所見
-
血液生化学:WBC 5,960/μL,Hb 15.0g/dL,Na 144mEq/L,K 4.4mEq/L,AST 37U/L,ALT 39U/L,γGTP 51U/L,CK 105U/L,UN 19U/L,Crn 0.89mg/dL
心臓超音波検査:LVDd/Ds 51/40mm,EF 47%,IVST/PWT 9/9mm
冠動脈CT:冠動脈に有意狭窄なし
下壁誘導でのQRS波高,QRS幅
心室性期外収縮(左室基部中隔側,中隔内または心外膜側起源)
解 説
本症例の心電図所見と経過
基本洞調律波形に混じって幅の広いQRSを有する期外収縮(三段脈と思われる)が頻発している。基本洞調律におけるQRS波形はⅠ誘導における陽性成分が強く,Ⅱ誘導に比べⅢ誘導の陽性成分が減高していることから水平位心が疑われる。期外収縮の所見として①QRS幅は130msと比較的狭い,②V2/3に移行帯のある左脚ブロック型,下方軸を呈している,③下壁誘導(Ⅱ/Ⅲ/aVF)における電位が洞調律時QRSに比べ非常に高い,④Ⅱ/Ⅲ誘導,aVR/aVL誘導の波高比はそれぞれⅢ/Ⅱ ratio=1.2,aVL/aVR ratio=1.2であり右下方軸を示す。これらの所見は期外収縮が中隔側左上方に起源を有していることを示唆している。
右室および左室の内膜側の流出路,左室流出路の内膜側最上部からペーシングを行ったが,ペーシング時の下壁誘導におけるQRS波高はclinical VPBと比較して低く,VPBはさらに上方に起源を有することが示唆された(図2)。3Dマッピングシステムを用いたVPB時のactivation mapでは大心静脈終点・前室間静脈移行部の局所電位が体表面QRSに比べ102ms先行しており,右室,左室に比べ明らかな早期性を有していた(図3)。インピーダンスが高く大心静脈内での通電が不可能であったため,対側の左室内膜側から高出力の通電を行い,期外収縮は残存するもののその頻度は減少した。
“LV summit”起源の心室性不整脈
心室上部の流出路付近は大動脈および肺動脈が左室・右室からそれぞれ起始し,心筋線維が複雑に走行することから心室性不整脈の好発部位として重要である。起源として左右心室の流出路,冠動脈洞,大動脈-僧帽弁輪間のMitoaortic continuityなどが挙げられる。特に,左室最上部心外膜側の冠動脈左前下行枝および回旋枝に挟まれた領域はMcAlpineによりLV summitという呼称が提唱されており,流出路起源心室性不整脈の好発部位の1つである。YamadaらはLV summit起源の心室性不整脈症例27例を検討し,心電図所見よりその起源を①大心静脈および前室間静脈,②大心静脈より上方のinaccessible area,③大心静脈より下方のaccessible areaに分類されうることを報告している。アブレーションには冠静脈洞および心外膜からのアプローチを必要とするが,心外膜脂肪の存在や冠動静脈損傷リスクのため本症例のように至適部位からの通電が困難である例も散見される。