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- うつ病・うつ状態、社会不安障害に対するレクサプロの臨床的有用性と扁桃体に及ぼす影響
Pick Up
2020年07月31日公開
「禁忌を含む使用上の注意」等は
添付文書をご参照ください。
監修:東京医科大学 精神医学分野 主任教授
井上 猛 先生
不安症状とうつは日常診療においてしばしばみられ、併存例も多く認められる重要な精神症状です。
またいずれの症状においても、扁桃体の活性化が重要な役割の一端を担っています。
近年、扁桃体を介した不安と恐怖の発現機序が解明されつつあるとともに、SSRIの不安症状改善作用の発現機序が扁桃体への影響を介していることが様々な研究により報告されています。
不安症状を診る重要性
様々な研究で、大うつ病と不安障害の併存率が検討されている。20,291名を対象としたRegierらの研究によれば大うつ病のエピソードを有する人は5.9%で、その約半数に不安障害の併存を認めた(図1)。このように不安障害はうつ病において高率に併存する重要な症状・疾患である。
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目的不安障害の有病率、その他の精神疾患との併存率を検討した。
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対象・方法20,291名を対象としたDSM-Ⅲ、DSM-Ⅲ-R、DSM-Ⅳ又はICD-10を用いた前向き疫学研究<Epidemiologic Catchment Area(ECA)study>を解析した。
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結果大うつ病エピソードの生涯有病率は5.9%であり、うち47.2%に不安障害の併存を認めた。
- 1)Regier, D. A. et al.: Br J Psychiatry 173(Suppl 34): 24-28(1998)より作図
参考:不安・恐怖を感じるメカニズム
不安・恐怖の感受には、扁桃体の機能が中心的な役割を担っていると考えられている。また、うつ病においても、扁桃体の活性化が重要な役割の一端を担っており、扁桃体は不安障害とうつ病に共通して関与する脳部位である可能性が示唆される(図2)。
扁桃体は、視床や大脳皮質から嫌悪刺激を受け取って、呼吸や脈拍の増加の他、様々な自律神経、内分泌変化を惹起する役割を担っており、このような扁桃体の活性化によって、人は不安・恐怖を感じる(図3)。健常人であっても他人の表情(とくに悲しい表情や恐ろしい表情)を認知したとき扁桃体が活性化するが、不安障害やうつ病では健常人を超える扁桃体の活性化が観察されている2)。一方、このような扁桃体の活性化はSSRIによって抑制されることが示されている3)。
- 2)Fu, C. H. et al.: Biol Psychiatry 64: 505-512(2008)
- 3)Sheline, Y. I. et al.: Biol Psychiatry 50, 651-658(2001)
- 4)井上 猛, 不安と抑うつ:情動の神経回路の視点から 日本不安・抑うつ精神科ネットワーク(編)
The 6th Symposium of Japan Psychiatrists Network on Depression and Anxiety. Depression and
Anxiety-診断・病態レベル・治療の側面から, アルタ出版, 東京(2009)
「禁忌を含む使用上の注意」等は
添付文書をご参照ください。
エスシタロプラムが扁桃体に及ぼす影響[臨床薬理]
大うつ病性障害患者に対して、無作為化二重盲検下でエスシタロプラム10mg/日またはプラセボを7日間投与し、恐怖及び幸福の表情認知に対する扁桃体のBOLD信号の変化を観察した。BOLD信号の増加は、神経活動の亢進に伴う脳血流量の増加を示しており、扁桃体においては不安・恐怖反応の増大を意味する。本研究の結果、幸福の表情認知におけるBOLD信号変化率はプラセボ群とエスシタロプラム群とで有意な差は認められなかった。一方、恐怖の表情認知におけるエスシタロプラム群とプラセボ群のBOLD信号変化率は有意な差があり、また、恐怖の表情認知では、大うつ病性障害患者(プラセボ群)のBOLD信号変化率は健康成人と有意に異なることが示された(図4)。このことから、うつ病患者で増加する恐怖の表情認知に対する扁桃体の活性化が、エスシタロプラムの投与によって抑制されたと考えられる。
安全性
本論文には安全性に関する記載がない(エスシタロプラムの安全性情報についてはDI参照)。
[試験概要]
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試験デザインプラセボ対照無作為化二重盲検比較試験
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目的大うつ病性障害患者(MDD)を対象として、恐怖の表情認知に対する扁桃体の反応にエスシタロプラムが及ぼす影響をプラセボを投与された患者及び健康成人を対照として検討した。
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対象DSM-Ⅳの主診断が大うつ病性障害で未治療の患者(解析対象:45例〔健康成人18例〕)
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投与方法エスシタロプラム10mg/日又はプラセボを7日間投与。
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評価項目fMRIで評価した恐怖及び幸福の表情認知に対する扁桃体の反応(BOLD信号)、BDI(Beck Depression Inventory)、HAM-D等
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解析計画fMRIで評価した恐怖及び幸福の表情認知に対する扁桃体の反応(BOLD信号)については、患者間因子として投与群を、患者内因子としてValence(感情価:恐怖/幸福)を用いたANOVAを用いて投与群間の比較を行った。また、コントロールとして設定された健康成人群とMDDプラセボ群間の比較も行った。
- 5)Godlewska, B. R. et al.: Psychol Med, 42: 2609-2617(2012)より改変
- 【試験実施体制:著者にルンドベック社よりコンサルタント料を受領している者が含まれる。】
〈解説〉井上 猛 先生
トピックス:SSRIによる不安症状改善作用の薬理学的メカニズム
近年SSRIは不安障害の治療に広く使われているが、その不安症状を改善する作用の機序が解明されてきたのは1996年以降であった。この頃から、SSRIがセロトニン神経伝達を促進することにより不安を和らげること、SSRIの作用部位が扁桃体であることなどが報告されてきた。さらに、動物実験モデルである「恐怖条件付けストレス」を用いた研究の結果から、SSRIは細胞外セロトニン濃度上昇を介して扁桃体グルタミン酸神経の活性化を抑制し、不安症状改善作用をもたらすと考えられている6-8)。
- 6)Inoue, T et al.: Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry 35: 1810-1819(2011)
- 7)井上 猛ほか, BRAIN & NERVE 64: 131-138(2012)
- 8)Izumi, T et al.: J Neurosci Res 89: 773-790(2011)
大うつ病患者を対象としたレクサプロの国内第Ⅲ相
プラセボ・パロキセチン対照二重盲検比較試験
主要評価項目である8週時におけるMADRS合計点の変化量について、レクサプロ併合群はプラセボ群に対する優越性とパロキセチン群に対する非劣性が検証された(図5)。また本試験では、レクサプロ併合群はMADRSサブスケールの精神的不安の1つの項目である内的緊張(漠然とした不快感、イライラ感、内的混乱、さらにはパニック、恐怖、苦悶のいずれかに至る心的緊張)、他5項目など6項目に関して、投与8週時にプラセボ群に対し有意に改善した(図6)。
安全性
観察期及び後観察期の副作用は、レクサプロ10mg群120例中76例(63.3%)、レクサプロ20mg群119例中90例(75.6%)、レクサプロ併合群239例中166例(69.5%)、パロキセチン群121例中86例(71.1%)、プラセボ群124例中64例(51.6%)に認められた。主な副作用はレクサプロ10mg群では傾眠(15.0%)、悪心(13.3%)、浮動性めまい、腹部不快感(各9.2%)、レクサプロ20mg群では悪心(21.0%)、傾眠(20.2%)、浮動性めまい(10.1%)、レクサプロ併合群は傾眠(17.6%)、悪心(17.2%)、浮動性めまい(9.6%)、パロキセチン群は傾眠(25.6%)、悪心(17.4%)、浮動性めまい(9.9%)、プラセボ群では悪心(11.3%)、傾眠(9.7%)、頭痛(5.6%)であった。重篤な副作用は、レクサプロ10mg群でうつ病・自殺企図1例(0.8%)、パロキセチン群で自殺念慮1例(0.8%)に認められたが、レクサプロ20mg群及びプラセボ群では認められなかった。投与中止に至った副作用は、レクサプロ10mg群で5例(4.2%)に8件(自律神経失調、腹部不快感、心室性期外収縮、心電図QT延長、胸部不快感、頭痛、嘔吐、肝機能異常)、レクサプロ20mg群で5例(4.2%)に11件(腹部不快感、食欲減退、呼吸障害、頭痛、冷汗、動悸、悪心、双極1型障害、浮動性めまい、無力症、入眠時幻覚)、パロキセチン群で3例(2.5%)に9件(頭痛、倦怠感、傾眠が各2件等)、プラセボ群で3例(2.4%)に3件(疼痛、易刺激性、椎間板突出)認められた。
[試験概要]
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試験デザインランダム化、二重盲検並行群間比較試験
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目的大うつ病性障害患者を対象にレクサプロ10mg/日及び20mg/日の有効性(プラセボに対する優越性、パロキセチン20~40mg/日に対する非劣性;MADRS合計点の変化量)と安全性を検討した。
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対象DSM-Ⅳ-TRによる主診断が大うつ病性障害であり、MADRS合計点が22点以上かつCGI-Sが4点以上を満たす20歳以上65歳未満の外来患者
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投与方法
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前観察期全例にプラセボを1週間投与
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観察期レクサプロ10mg群(120例)※:レクサプロ10mg/日を8週間投与 レクサプロ20mg群(119例)※:レクサプロ10mg/日を1週間投与後、20mg/日を7週間投与 パロキセチン群(121例):パロキセチン10mg/日を1週間投与後、20mg/日を1週間投与し、増量は2週、3週時に、減量は3週、4週時に10mg/日ずつ可能として計8週間投与(最低用量20mg/日、最高用量40mg/日) プラセボ群(124例):プラセボを8週間投与
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後観察期レクサプロ10mg群、20mg群及びプラセボ群:漸減用プラセボを1~3週間投与 パロキセチン群:1週ごとに10mg/日ずつ漸減
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※レクサプロ10mg群と20mg群を合わせた群をレクサプロ併合群とした。
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有効性評価項目<主要評価項目>
MADRS合計点の変化量(8週時)
<副次評価項目>
8週時における以下の項目 ・MADRS合計点での反応率(合計点が治療開始時から50%以上減少した患者の割合) ・HAM-D17合計点の変化量 ・HAM-D17合計点での反応率(合計点が治療開始時から50%以上減少した患者の割合)
<その他の評価項目>
8週時における以下の項目 ・MADRS合計点での寛解率(合計点が10点以下の患者の割合) ・HAM-D17合計点での寛解率(合計点が7点以下の患者の割合) ・HAM-Dサブスケール(抑うつ気分・身体についての不安・精神運動抑制・睡眠障害・認知障害・憂うつ症状)の変化量 ・CGI-Sの変化量 ・CGI-I -
安全性評価項目副作用発現率、一般臨床検査(血液学的検査、血液生化学検査、尿検査)、バイタルサイン(血圧、脈拍数)及び体重、心電図
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解析計画主要評価項目であるMADRS合計点の変化について、レクサプロ群のプラセボ群に対する優越性の検証及びパロキセチン群に対する非劣性の検証にはいずれもベースラインのMADRS合計点を共変量としたANCOVAを用い、パロキセチン群に対する非劣性の検証についてはさらに2群間のMADRS合計点の変化量の平均値の差の両側95%信頼区間を用いて評価する(差の両側95%信頼区間の上限値が非劣性限界値(3.2)を下回った場合に非劣性を認める)。
- 9)持田製薬社内資料:用量反応非劣性試験
-大うつ病性障害患者におけるプラセボ及び塩酸パロキセチンを対照とした有効性及び安全性の検討-(2011年4月22日承認、CTD 2.7.6.8.2)
<承認時評価資料>
社会不安障害患者を対象としたレクサプロの
国内第Ⅲ相プラセボ対照二重盲検比較試験
12週時におけるLSAS-J合計点の変化量(LOCF、平均値)は、レクサプロ10mg群-26.9点、20mg群-32.6点、プラセボ群-23.1点であった(図7)。LOCFでの解析ではレクサプロ10mg群とプラセボ群の間に有意な差はみられなかったが、OCでの解析及びMMRM解析では、レクサプロ10mg及び20mg群とプラセボ群との間に有意な差を認めた(図8)。さらにLSAS-J合計点の変化量のOCでの解析では、レクサプロ10mg群で4週時より、20mg群で2週時よりプラセボ群に対する有意な差を認めた(図9)。以上のことから、社会不安障害に対するレクサプロの有効性が示された。
安全性
観察期及び後観察期の副作用は、レクサプロ10mg群198例中102例(51.5%)、レクサプロ20mg群193例中111例(57.5%)、プラセボ群196例中56例(28.6%)に認められた。主な副作用は、レクサプロ10mg群では傾眠18.7%、悪心14.6%、浮動性めまい8.6%等、レクサプロ20mg群では傾眠22.3%、悪心17.6%、浮動性めまい9.3%等、プラセボ群では傾眠7.7%、頭痛5.6%、悪心4.1%等であった。重篤な副作用は、レクサプロ10mg群で痙攣が1例(0.5%)、レクサプロ20mg群で糖尿病が1例(0.5%)に認められたが、プラセボ群では認められなかった。投与中止に至った副作用は、レクサプロ10mg群10例(5.1%)に17件(頭痛が3件、悪心、上腹部痛、浮動性めまいが各2件等)、レクサプロ20mg群10例(5.2%)に11件(悪心が2件、躁病、心電図QT延長、嘔吐、浮動性めまい、動悸、易刺激性、糖尿病、倦怠感、傾眠が各1例)、プラセボ群6例(3.1%)に7件(不安が2件、社交恐怖症、不眠症、うつ病、自殺念慮、頭痛が各1件)認められた。
[試験概要]
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試験デザインランダム化、二重盲検並行群間比較試験
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目的社会不安障害患者※を対象にレクサプロ10mg/日及び20mg/日の有効性(プラセボに対する優越性)と安全性を検討した。
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対象DSM-Ⅳ-TRによる主診断が社会不安障害で、かつ全般性社会不安障害に該当する患者で、LSAS-J合計点が60点以上、CGI-Sが4点以上、LSAS-Jにおいて恐怖感/不安感もしくは回避行動を示す対象となる状況が4項目以上あり、そのうち2項目以上が社交状況である18歳以上65歳未満の外来患者
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投与方法
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前観察期全例にプラセボを1週間投与
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観察期レクサプロ10mg群(198例):レクサプロ10mg/日を12週間投与 レクサプロ20mg群(193例):レクサプロ10mg/日を1週間投与後、20mg/日を11週間投与 プラセボ群(196例):プラセボを12週間投与
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有効性評価項目<主要評価項目>
LSAS-J合計点の変化量(12週時)
<副次評価項目>
12週時における以下の項目・LSAS-J合計点での反応率(合計点がベースラインから30%以上減少した患者を反応有とした)・LSAS-J恐怖感/不安感サブスケール合計点の変化量・LSAS-J回避サブスケール合計点の変化量・CGI-Sの変化量・CGI-I・CGI-Iでの反応率(CGI-Iが「著明改善」又は「中等度改善」を示した患者を反応有とした) -
安全性評価項目副作用発現率 等
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解析計画主要評価項目であるLSAS-J合計点の変化量(12週時、LOCF)については、ANCOVAを用いて投与群を因子、ベースラインのLSAS-J合計点を共変量として投与群間の比較を行う。なお、レクサプロ10mg群においてプラセボ群に対する優越性が検証された場合に限りレクサプロ20mg群とプラセボ群の比較を行う。あわせてLSAS-J合計点の変化量の推移(LOCF)を解析する。また、感度分析としてLSAS-J合計点の変化量(12週時)についてOC及びMMRMによる解析を行い、LSAS-J合計点の変化量の推移(OC)を解析する。
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※社会不安障害2008年に日本精神神経学会により社交不安障害と表記されることになったため、本試験は社交不安障害を対象として実施されましたが、効能又は効果にあわせて、社会不安障害と記載しています。
- 10)持田製薬社内資料:社会不安障害に対するプラセボ対照試験(2015年11月20日承認、CTD 2.7.6.1.1)<承認時評価資料>
[監修コメント]井上 猛 先生
このようにうつ病に不安障害が併存している可能性は高く、診療上意識する必要があると考える。近年、不安障害の治療に広く用いられるSSRIは、細胞外セロトニン濃度上昇を介して扁桃体グルタミン酸神経の活性化を抑制することが動物実験で示されている6-8)。本パンフレットで紹介したSSRIであるレクサプロは臨床試験において、うつ病患者の精神的不安の項目の1つである内的緊張を改善し、また社会不安障害患者における有効性が示されている。またレクサプロ10mgの反復投与は脳内セロトニン・トランスポーターを約80%占有する用量であることがSPECTを用いた研究で示されており11)、この用量を投与すると大部分のセロトニン・トランスポーターが不活化すると考えられている。すなわち、レクサプロ10mgは治療用量として合理的であり、この用量で治療開始できる臨床的有用性は高いと言えよう。一方、脳内セロトニン・トランスポーターを約80%占有する用量には個体差があるので、レクサプロ10mgで効果が十分でない場合には20mgへの増量が必要となる場合もある。以上のように、レクサプロはうつ病・うつ状態、社会不安障害の治療選択肢の1つとして有用と考えられる。
- 6)Inoue, T et al.: Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry 35:1810-1819(2011)
- 7)井上 猛ほか, BRAIN & NERVE 64:131-138(2012)
- 8)Izumi, T et al.: J Neurosci Res 89:773-790(2011)
- 11)Kasper, S et al.: INTERNATIONAL CLINICAL PSYCHOPHARMACOLOGY 24. 3:00119〜00125(2009)
- 【試験実施体制:ルンドベック社の支援(共著者の一部への講演料等の支払い)により実施】