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Pick Up
2022年08月16日公開
“ライフステージに応じた心身ケアの必要性”
女性のライフステージで起こりやすい病気
女性のライフステージは、おおまかに思春期(10~18歳ころ)、性成熟期(18~45歳ころ)、更年期(45~55歳ころ)、老年期に分けられ、それぞれで起こりやすい病気があります(図1)1-3)。そのため、思春期から老年期まで、継続的に産婦人科での心身のケアが必要とされます。
初めての月経(初経)の後は、子宮や卵巣の成熟に伴い、エストロゲンの分泌量が増加し、妊娠や出産に向けての準備が整っていきます。このため、思春期(10~18歳ころ)では卵巣の機能が完成するまで、月経不順や無月経、月経困難症などの月経関連症状が多く認められます。最近では、月経前症候群(PMS)や月経前不快気分障害(PMDD)の認知度も高まってきました。
性成熟期(18~45歳ころ)は、エストロゲンの分泌量が多くなり、妊娠・出産を意識する世代です。思春期と同様に月経関連症状が多くみられますが、子宮内膜症や卵巣嚢腫、子宮頸がんなどの器質的疾患も認められます。
更年期(45~55歳ころ)はエストロゲンの分泌量が急激に減少するため、体内のホルモンバランスが激変し、心身ともに体調を崩しやすい世代です。血管運動神経症状、身体症状、精神症状など、多岐にわたる症状がみられます。症状には個人差があり、その程度も軽症から重症までさまざまですが、日常生活に支障がある場合は「更年期障害」とよばれます。
老年期ではエストロゲンの分泌が乏しくなり、老人性膣炎や骨盤臓器脱など婦人科関連の症状がみられるほか、骨粗鬆症や動脈硬化などの疾患なども多く認められます。
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水沼英樹 監修, 女性の健康とメノポーズ協会 編著: 女性の健康と働き方マニュアル. 2012
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宮尾 益理子: 日老医誌 2008; 45(3): 270-273
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安井敏之、青野敏博: 検査と技術 1998; 26(2): 106-113より作図
ライフステージに応じた産婦人科での心身ケア
思春期
思春期では、月経不順や無月経、月経困難症などの月経関連症状が多く認められます。多くの方は初経後2年ほど経過してから月経痛が強くなりますが、月経をストレスと感じさせないようケアしていくことが大切です。しかし、「月経痛で登校できない」ことを主訴に婦人科を受診する方の中には、学校に馴染めない、いじめがある、受験が控えているなど、別の要因が隠れていることがあるため、意識して背景を探る必要があります(図2)。
無月経の場合は、背景に摂食障害が存在することがあるため、必ず体重の増減がないかを確認します。思春期はスポーツを活発に行っている世代であり、利用可能エネルギーが不足することにより無月経になり、骨粗鬆症予備群となっていることもあります。「女性アスリートのヘルスケアに関する管理指針」4)などを参照しながら、どのような学校生活を送っているか把握することが大切です。
そのほか、入学試験などのために月経を移動させる必要があり婦人科を受診される方もいます。また、最近積極的な勧奨が再開されたヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの接種も重要です。症例数としては少ないものの、月経がはじまったことをきっかけに性別の違和感を持つ方もいるため、精神科との連携も必要です。
思春期の患者さんは、母親に連れられて来院されることが多くあります。その結果、問診に対してもご本人に代わって母親が答えてしまい、なかなか直接話を聴けないことが少なくありません。
診察の部屋を変更するなど、ご本人から直接聴き取りができるよう工夫して、本当に困っていることや治療に対する希望など、ご本人の気持ちや考えを聴いたうえで治療することが重要です。
図2. 思春期の診療で留意するポイント
①思春期エストロゲンの
分泌量が増える時期
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月経痛で登校できない → 本当の理由? 受験のストレス? 適応?
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無月経 → 体重減少? 摂食障害?
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部活動、アスリート → 利用可能エネルギー不足、骨粗鬆症
母娘で来院すると母親が話してしまうので、
本人から聴き取りできるように工夫する
性成熟期
性成熟期でも思春期と同様に月経関連症状が最も多くみられます。PMDDはささいな症状も含めるとほとんどの女性が感じており、そのうち社会生活困難を伴うPMSの頻度は5.4%、PMDDの頻度は1.2%と報告されています(欧米では2~4%)5)。PMSの治療として、「産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2020」5)では第1 選択治療にはカウンセリング・生活指導(症状日記、規則正しい生活と睡眠、アルコール制限)、エクササイズ・運動療法など、また低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬も推奨されています(各推奨レベルB、図3)。精神症状が主体の場合は選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が推奨レベルBとして記載されていますが、産婦人科では処方に至らないことも多いため、精神症状が強い場合には精神科や心療内科への紹介を考慮します(推奨レベルC)。就労している方も多い中、月経前~月経中にかけて月の半分にわたり不調を感じる状態は、なかなか周囲の理解を得られにくく、休職を余儀なくされる方もいるため(図4)、産婦人科医が「かかりつけ」となり、月経のストレスを克服できるようにしていきたいと考えています。
また、子宮頸がん検診が推奨されている世代でもあり、パートナーとの関係で性感染症の治療やピルの処方が必要になることもあります。最近では、「プレコンセプションケア」の認知度も高まってきました。プレコンセプションケアとは、女性が妊娠する前から、改めて自身の健康意識を高めることと定義されており、婦人科における健康診断も行っていきたいと考えています。また、不妊症や不育症の治療で頻回な通院を行っても妊娠に至らず、不安やあせり、精神的なダメージを受けている女性も少なくないため、精神的なケアが求められます。さらに、周産期に至った場合はなお一層の精神的なケアが必要です。
性成熟期の患者さんの特徴としては、インターネットなどで心配ごとについて調べて相談に来られることが多くあります。特に、PMS、PMDDが疑われる方は精神科の受診歴がある方も少なくないため、精神科と連携して治療を行っていくことが重要であり、患者さんにもそのように伝えています。
図3. 月経前症候群の診断・管理
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日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会 編集: 産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編 2020. 2020
図4. 性成熟期の診療で留意するポイント
②性成熟期エストロゲンの
分泌が盛んな時期
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月経関連症状で仕事に支障:周囲の理解、休職
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パートナーとの関係:性感染症、ピル
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妊娠活動による不安、焦り
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周産期は特に心身の変化に注意
PMS、PMDD疑いの患者さんは精神科の受診歴も確認し、
必要に応じて精神科とも連携して治療する
更年期
更年期はほとんどの人に少なからず症状が出現します。更年期障害を主訴に直接婦人科を受診される方もいますが、身体的な症状で他の診療科を受診されたものの(例えば、動悸で循環器内科、めまいで耳鼻科など)異常が認められず、婦人科を紹介されて受診する方もいます。また、この世代は生活習慣病にも注意が必要なため、内科との連携も必要です。
「産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2020」5)では、更年期障害の診断に際しては、明らかな器質的疾患の存在を否定したうえで、特に甲状腺疾患とうつ病には注意をはらう必要があるとされています(各推奨レベルB)。そのうえで、更年期障害への対応として、受容と共感を表出しながら患者さんの訴えを傾聴することが重要であると記載されています(推奨レベルB、図5)。治療法は多岐にわたりますが、主な症状がホットフラッシュ、発汗、不眠などの場合はホルモン補充療法(HRT)(推奨レベルB)が、不定愁訴の場合は漢方療法など(推奨レベルC)が推奨されています。それぞれの治療法のメリットとデメリットを説明したうえで、患者さんとよく相談しながら治療方針を決定します。
更年期の精神症状に対する薬物療法としては、うつ症状を伴う更年期障害にはHRTを用いるとされています(推奨レベルB、図6)。精神症状が重い場合は向精神薬の使用、うつ状態に対してはSSRIやセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)などの抗うつ薬を用いることが推奨されています(各推奨レベルC)。しかし、これらの処方は産婦人科では難しいことも多いため、希死念慮のある場合や双極性障害が疑われる場合などは、精神科などの専門医に紹介します(推奨レベルA)。希死念慮の確認は躊躇するかもしれませんが、明確に「死にたくなるようなことがありますか?」と訊いたほうがよいと感じています。
更年期障害の診療では、産婦人科と内科、精神科・心療内科との連携が非常に重要であり、各科の専門性を活かしつつ、どのように連携を図っていくかが課題です(図7)。この世代の女性は家庭でも職場でも大きな役割を担っていることが多く、「更年期とは認めたくない」、「仕事をしっかりこなしたい」と思いながらも、心身の不調で期待通りの成果が得られないジレンマに陥りがちです。患者さんの話をしっかり聴き、「なんとか更年期を乗り切りましょう」と声掛けをしながら、ご本人が納得できる治療法を提案することが一番の解決策ではないかと考えています。
図5. 更年期障害への対応
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日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会 編集: 産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編 2020. 2020
図6. 更年期の精神症状に対する薬物療法
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日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会 編集: 産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編 2020. 2020
図7. 更年期の診療で留意するポイント
③更年期エストロゲンの
分泌量が急激に減少する時期
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更年期障害 → 内科、精神科・心療内科と連携
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家庭での役割? 職場での立場?
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婦人科悪性疾患にも注意
話を聞いてほしい人が多い
治療方法(改善策)を提案すると安心される
老年期
老年期でも、夫婦生活に関することや骨盤臓器脱など女性の悩みは継続して存在します(図8)。さらに年齢を重ねると、骨粗鬆症による骨折のために日常生活動作(ADL)に影響が生じたり、生活習慣病なども多く認められるようになります。
老年期の患者さんは、介護をしている家族と一緒に来院される方もおり、患者さんのADLに合わせた治療選択が求められます。人生100年時代を迎え、産婦人科としても「いかに健康寿命を延ばすか」が課題です。老年期を見越して、「かかりつけ」としての診療を続けていただきたいと考えています。
図8. 老年期の診療で留意するポイント
④老年期エストロゲンの
分泌が乏しくなる時期
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更年期以降も女性の悩みは継続:夫婦生活、婦人科疾患
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ADLへの影響
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生活習慣病 → 内科と連携
人生100年時代、健康寿命を延ばす
介護をしている家族と来院、ADLに合わせた治療選択
医療連携を受け入れてもらうために
どの世代においても、産婦人科と内科、精神科・心療内科との医療連携は重要です。患者さんが納得できる診療方針を一緒に考え、他科受診を提案する際には患者さんの受け入れをよく見極め、タイミングを見計らって提案することも大切だと思います。
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1) 水沼英樹 監修, 女性の健康とメノポーズ協会 編著: 女性の健康と働き方マニュアル. 2012
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2) 宮尾 益理子: 日老医誌 2008; 45(3): 270-273
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3) 安井敏之、青野敏博: 検査と技術 1998; 26(2): 106-113
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4) 日本産科婦人科学会/日本女性医学学会 編集・監修: 女性アスリートのヘルスケアに関する管理指針. 2017
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5) 日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会 編集: 産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編 2020. 2020