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痛風列伝 vol.10
ミケランジェロは
本当に痛風だったのか?
ルネサンスを代表する大芸術家に痛風の疑い
ルネサンス期を代表するイタリアの大芸術家のひとりが、ミケランジェロ・ブオナローティです。彼がまだ20代の若者だった1504年に完成させた彫刻『ダビデ像』は特に有名で、たいていの人は、その写真を教科書や本で見たことがあるでしょう。
ミケランジェロは、自らが本業と見なしていた彫刻家のみならず、画家、建築家、詩人、さらには解剖学者としても目覚ましい活躍をし、ヨーロッパの文化、芸術に多大な影響を与えました。その功績は、現代でもなお輝きつづけています。
そのようなミケランジェロが、痛風に苦しんでいたという説があります。
モデルとされた絵を見ると右ひざが変形
その根拠のひとつが、ラファエロ・サンティのフレスコ画『アテナイの学堂』です。ラファエロは、このフレスコ画で古代ギリシアの哲学者たちを描くにあたり、彼と同世代の芸術家をモデルにしました。その中にはミケランジェロもいたとされており、ヘラクレイトスとして描かれたミケランジェロの姿を見ると、右ひざが肥大し、変形しています。
さらに、当時のミケランジェロの書簡には、片足を襲っていた激しい痛みの訴えとともに、痛風同様に高尿酸血症が原因で発症する尿路結石の症状が記されていました。これらのことから、ミケランジェロは痛風だったのではないかと考えられたわけです。
ただし、そもそもラファエロが描いたヘラクレイトスのモデルが、ミケランジェロだったという確証は見つかっていません。また、関節痛に苦しめられていたこと自体は書簡で明らかになっているものの、ひざに痛みを抱えていたとの確証的な史料もありません。
近年、変形性関節症の可能性が示唆される
そうした中、ミケランジェロは痛風ではなく変形性関節症だったとする説を、イタリアのある研究グループが近年になって発表しました。ミケランジェロが60代のときの複数の肖像画を分析した結果、いずれの肖像画でも左手の指関節に関節症に起因する変形があることがわかりましたが、手に炎症の徴候は見つけられませんでした。痛風は尿酸塩結晶を起因とする炎症反応であることから、ミケランジェロは痛風ではなく変形性関節症だったのではないかと彼らは結論づけたのです。
画像診断で関節内に尿酸の結晶があることを確認できれば痛風か否かの診断ができますが、残念ながらそれが無理な以上、ミケランジェロが本当に痛風だったかどうかについては、なかなか決着はつかないでしょう。
ミケランジェロも、現代であれば鑑別診断で病名を判明させ、正しい診断のもとで適切な治療を受けることができたかもしれませんね。
- 参考文献
- Dahan S. IMAJ 2017;19:772-6
Pinals RS. et al. J Clin Rheumatol 2015;21(7):364-7
CH Espinel. Lancet 1999;354(9196):2149-51
